MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第21話「背反」(アルフォート人科学者逃亡事件)


あらすじ

 別宇宙からアルフォート人科学者リフルが惑星クーロンに逃亡し、特務情報部のイワノフが乗り込んだシリウス小隊は捜索に向かう。

 Aパート: イワノフ乗車、リフルとの対面
 Bパート: アルフォート軍の攻撃、ビッグワン緊急ワープ

コメント

 これまでの所、少なくとも作品での描写を見る限り銀河鉄道は会社組織(銀河鉄道株式会社が正式名である)で、SDF隊員が保安任務を行うにしても、それはどこまでも列車の中での話で、宇宙侵略への対抗とか軍、治安維持任務は管轄外という印象があったが、ここは松本零士の世界なので、鉄道会社にも特務機関(スパイ専門組織)があることになる。一応現代の会社風に解釈すると、「特務情報部」は経営者直属の社長室とか経営企画部(名称はさまざま)、秘書課といった存在だろうか。
 そういうわけで、管理官のイワノフ氏も本来なら美人ギャルに囲まれ、「そうだ、ディスティニー行こう」などと観光企画にうつつを抜かしている方がお似合いだが、ナポリタンすら贅沢な常在戦場の松本ワールドではそうではなく、彼はポスターならぬ拳銃を片手にビッグワンに乗り込み、シリウス小隊の面子に上長風を吹かせている。
 これも解釈すると、銀河鉄道株式会社はいわゆる委員会設置会社(あるいはドイツのAGなど近い形の会社)でレイラ以下役員に業務執行権はなく、実権はその下の執行役にあり、特務情報部は執行部直属と解釈すれば、あの何をやっているのか分からないレイラと組織の中にもう一つ組織があるような作品の描写も説明できることになる。一例を挙げればサントリーやトヨタ自動車である。あれならトヨタ社長がいかにクルマ好きの善人でも、下に悪どそうな役員どもはいそうだし、こう説明すれば説明の難しいこの種の会社もどんなものか分かるだろう。
 いずれにしても、こういった話は学たち下々には関係のない話で、横柄なイワノフの態度はさしずめ権力を笠に横暴を行う社長付きやおべっか使いの中間管理職などと考えれば、作品の描写は実に生々しく、作品でもあまり会社らしくない銀河鉄道株式会社で唯一「会社らしい」描写といえる。その上、バルジの頭越しにいちいち指図するイワノフが無能だからたまらない。おかげで重要な情報を持参したリフルはむざむざ殺され、無謀な戦いを強要されたビッグワンは大破、ルイも重傷を負うなど死屍累々だが、こんな感じの光景は、視聴者の多くにはわざわざ画面で見なくても、案外おなじみのものかもしれない。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両・施設

  ■銀河鉄道001号(ビッグワン)・・・アルフォート軍の攻撃で大破

作品キャラ・用語紹介

コスモマトリクス 
 別宇宙のイスタリオン星の科学者リフルが開発した機械の能力をそれまでの数倍、数十倍にアップする特殊素子。リフルはこれをSDFに渡すことでそのままではアルフォート軍の兵器に通用しないSDFの装備をパワーアップさせ、侵略軍に対抗させることを考えていた。後にビッグワンに組み込まれ「コスモマトリクス砲」を搭載した戦闘列車はアルフォート軍と互角以上の戦いを繰り広げたが、当初はパワーアップに列車が耐えきれず戦闘列車が爆発するなどしていた。後に銀河鉄道の兵器技術として完成され、より威力を増したコスモマトリクス砲は決戦兵器としてこの世界最強の武器となった。使いようによってはアルフォート後は平和利用の余地も十分にあったと思うが、作品が松本零士で持っているのが銀河鉄道では「豚に真珠」、「猫に小判」で、2003年の時点でトワイライト・エクスプレス瑞風の出現すら予測できない貧困な想像力では、こういうものは大量破壊兵器以外に使い道がなかっただろうということは容易に想像できることである。

イワノフ 
 典型的なヒールキャラの特務情報部管理官。困ったことに前作999やヤマトで声優という職業が認知され、俳優の裏稼業ではなく「スター声優」や「メジャー声優」を目指す向きの多くなった昨今ではヒールキャラというのは鬼門で、熱演してもキャラと同時に声優まで憎まれ、割の合わないことが少なくない。声優ではないが、典型的な例が大河ドラマ「真田丸」で大蔵卿局を演じた峯村リエで、この場合は演じた大蔵卿のみならず峯村の私生活まで批判され、「性悪」、「陰険女」など視聴者に嫌われ、その人格まで否定される悲惨なことになった。ほか、NHK朝ドラでは泉ピン子(マッサン)、大地真央(とと姉ちゃん)が同様の被害を受けている。これらのケースでは視聴者も幼稚だし、そういうリスクを俳優に負わせる監督や脚本家にも問題があるだろう。イワノフの場合は脚本を読むだけで、それまでは割と和気藹々と演じ、いい感じになっていた声優陣に亀裂が入るだろうことは分かり切った話で(現にコメンタリーでも紹介がなく)、自身も声優で加藤精三(メガトロン)などヒールキャラの危険性を良く知る音響監督の塩屋翼は仕方ないので自分の兄(塩屋浩三)に汚れ役を頼んでいる。ここで脚本家にもう少し力があれば、塩屋氏も兄の浩三氏もバツの悪い思いをしなくて済んだだろうに、気の毒な話である。

今週の問題社員

イワノフ CV:塩屋浩三
 声優事情については先に解説したので、作品のキャラについて解説すると、おそらくは銀河鉄道株式会社の業務執行機関(レイラがあまりに無能なので存在を観念せざるを得ない)である執行部直属の社員。作中での様子を見るに、鉄道や保安業務の知識はほぼゼロで、専門的な訓練を受けた様子もないことから、正規社員やSDFなど保安業務での採用でないルート、つまり社長レイラ直々の指名で任命された執行役の一人であると考えられる(後の話でバルジの査問会に上席で出席している描写から)。猜疑心が異様に強く、宇宙の危険を真摯に訴えるリフルの願いを一蹴し、結果として彼女を死に至らしめた。また、作戦指導も命令のみで一切の説明をしない、負傷したルイの治療を拒否するなど遂行それ自体にも問題が多く、その適性のなさをバルジに難詰されている。ほか、貴重な資料であるコスモマトリクスをゴミ箱に捨てて隠滅しようとしたり、報告書からアルフォート軍との遭遇を抹消したり、SDFが総力を挙げて計画した反撃計画を独断で瓦解させるなど彼の無能による被害は少なくない。常に銃を携帯しており、従わない社員には発砲することもある。銀河鉄道の他の社員からは毛嫌いされているため、自身はバルジらとは別行動を取り、指図も装甲された車内など後ろから撃たれないような場所から行っている。情報部らしく彼がもう少し行動的なら、惑星クーロンに降り立った時点でブルースか誰かに謀殺されていたはずだが、実際に死んだのは彼ではなくブルースの方である。職制上、レイラの下、局長(SDF司令)より上の銀河鉄道の汚れ役、不祥事揉み消し担当役員。

カオルmemo

 惑星クーロンからSDFシグナルが発信され、シリウス小隊が救援に向かう。しかし指令車両には特務情報部のイワノフが同乗しており、バルジ隊長ではなく自分の命令に従うよう指示する。学らは別宇宙のアルフォート星団帝国から来た科学者リフルを助け、彼女は帝国軍の魔の手に対抗するためとして彼らにコスモマトリクスを手渡す。隊員たちはリフルの言葉を信じるが、イワノフは彼女をスパイと見なし対立する。謎の異星人の襲撃を逃れてビッグワンは緊急発進するが、そこに、有紀渉が殉職した時と同じ戦艦が襲いかかる。バルジはイワノフの強権を押し切り、コスモマトリクス使用の決断を下す。
 突然登場した特務情報部のイワノフとともに、話は急展開を見せる。学やブルースを襲った異星人は別宇宙から来たというのである。イワノフはその件で既に多くの部下を失っているようだが、背景の説明がないので、その辺りは想像するしかない。リフルを救助するまでは市街地での銃撃戦、ビッグワン発進後は謎の戦艦を迎えての砲撃戦と戦闘シーンが多く、最終話に向けての加速は十分。しかしリフルと学が見つめ合う妙にガンダムっぽい演出は何だったのだろう? 黒い体の異星人の攻撃を受けた学をリフルは身を挺して庇い、負傷する。学に何か不思議な思い入れがあるようである。

今週のメンヘラ社長

何も見えない。私には何もできない。
それでもやらなければ、なすべきことを・・・
闇が。すべての光が消える。
いいえ、シュラ。光は消えない。


カオルのひとこと
 運命が見えない、と戸惑うメンヘラ社長。一人自問自答しているように見えますが、シュラという別人格と対話しているようです。なすべきことをやってくれるのでしょうか? とりあえずイワノフを、何とかしてください。あいつを派遣したのはあなたじゃないんですか?

評点

★★★ イワノフは悪すぎ、一応最終回に向かう話。(小林)
★★★ イワノフを迎えて急展開。謎が多いが勢いで見せる。(飛田)

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