MUDDY WALKERS 

gundam

 機動戦士ガンダム(1979)各話レビュー

 第17話「アムロ脱走」

脚本/松崎健一 演出/藤原良二 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

あらすじ

 ブライトたちは、捕虜となったコズンを尋問していた。しかし彼は、ホワイトベースのクルーたちが素人同然であることを見抜いていた。牢に戻されたコズンは奥歯に仕込んだ爆弾を取り出して扉を爆破、ランバ・ラル隊と連絡を取ろうとする。そんな矢先、ホワイトベースはミサイル攻撃を受け、ブライトはアムロにガンダムでの出撃命令を出す。しかしアムロはハヤトとともに勝手にガンタンクで出撃してしまう。

コメント

 冒頭のナレーションが、いきなりのガンダム空中換装場面から始まる。中央アジアで訓練にいそしむ彼ら、という描写で「お約束」の合体シーンを片付けているのである。描きたい内容が詰まっている、ということである。実際、この回のストーリーの密度は尋常ではない。

 「アムロ脱走」というタイトルだが、メインとなるエピソードは捕虜となったランバ・ラル隊の士官コズンの脱走である。本作では「プロ」と「素人」との対比が効果的に用いられており、第1クールでプロの手練れを見せたのはシャアだった。第2クールでその役割を果たすのはランバ・ラルである。彼は単に一パイロットとしてだけでなく、部隊をまとめあげる指揮官としての手練れを見せる。

 彼は副官相当の立場にある愛人ハモンに対して、ガルマの仇討ちという任務を受けた理由を説明している。成功すれば二階級特進で部下の生活も安定し、ハモンもジオンに近い生活ができる、というのである。こうした目標は当然のこと、部隊内で共有されているだろう。
 そして、捕虜になったコズン対しては「無事に逃げ果せてくれよ」と気遣いを見せながらも、彼がその能力にふさわしい働きをすることについては信頼していることが伺える。

 
 一方のホワイトベースは弱冠19歳のブライト・ノアが指揮官を務めているが、捕虜のコズンは当然のこと信用せず、尋問もままならない。身体検査もろくにできず、そのことを捕虜に見抜かれている有様である。独房には先に勝手にガンダムで出撃したセイラが入っているし、ザクを鹵獲したアムロはシミュレーションの作成に夢中である。カイの申し出で交代したミライはキッカとともに入浴タイムを取るが、クルーの勤務と生活が渾然一体となっている様子からは、相当の疲労と不平不満とが蓄積されているのではないかと推測される。
 そんな中、2つの事件が起こる。一つは捕虜コズンの脱走、もう一つはアムロの命令違反である。

 独房の鍵を金歯に擬装した小型爆弾で爆破し、コズンは第2通信室からランバ・ラル隊に連絡を取る。コズンの漏らした情報をもとにランバ・ラルはホワイトベース迎撃に向かう。折しもホワイトベースは、正面のジオンの鉱山基地を攻撃しようとしているところだった。
 アムロは、鉱山基地の攻撃にガンダムは必要ないと決めつけ、ガンダムでの出撃を命じられたにもかかわらず勝手にハヤトとガンダンクで出撃する。遠距離からのガンタンクの攻撃に鉱山基地は沈黙するかに見えたが、そこに、マ・クベ大佐からの支援部隊のドップ、そしてランバ・ラルの地上部隊が加わり、たちまち苦境に陥ってしまう。 「ザクめ、計算より動きが速いぞ」。アムロはいかにもオタク少年らしく、自分がデータ解析して作ったシミュレーション通りに戦いができるかを検証したかったようだ。いやむしろ、計算上は必ず勝てる、と自信を持っていたのだろう。そのちっぽけな自負心は、ランバ・ラルの駆るグフの攻撃で吹き飛んでいった。

 ランバ・ラル部隊との交戦のさなか、脱走したコズンはホワイトベース脱出を図るが、ハワドの放ったバズーカ砲で吹き飛ばされて、中央アジアの砂漠の闇へ消えていった。脱走の末路は死の闇だった。しかしコズンは味方を信じて飛び立とうとしたのだ。

 
 アムロも、やがて同様に中央アジアの砂漠の闇へ、ガンダムに乗って飛び立ってゆく。「アムロをガンダムから降ろす」ことを相談するブライトとミライの会話を聞いてしまったのだ。「あそこには、仲間がいるんだ」、そう言って母の元を後にしたアムロだったが、その仲間が今、彼を無用のものにしようとしている。味方に裏切られて飛び立つ彼の前には、心の闇が広がっている。

この一言! 「止めるな!」

 本作は主人公が主役ロボットに乗って、敵軍に追われながら地球へ降下するまでの疾走感が素晴らしいが、第2クールに入ると、主人公たちを執拗に追撃してきたシャアが姿を消し、主人公たちの乗るホワイトベースの目的地も定かでなくなる。彼らの迷走がいよいよ始まる。

 もともと、「機動戦士ガンダム」の当初の企画は宇宙版の「十五少年漂流記」だったといわれている。しかし紆余曲折を経て、まずロボットアニメの体裁が取られることになり、少年たちの乗った船は宇宙ではなく地球上を航行することになった。シャアの追撃を逃れて地球連邦軍本部ジャブローへたどりつく、という当初の目的がシャアの企てで果たせなくなり、少年たちはいよいよ、地球の大陸の上を「漂流」することになる。

 実は私自身は、この地上編の第2クールが作中でも特に「ガンダムらしい」と思っている。アムロという主人公、そして彼をとりまく人々の内面に降りて行く中で、激しい戦闘が展開されること、そして彼らのそうした戦いが、実は戦況を左右するようなものでは決してなく、「生き延びるため」の局地戦に過ぎないことがあるからだ。彼らの中に起こる対立は、むしろ「十五少年漂流記」のヒットで派生的に生まれたウィリアム・ゴールディングの小説「蠅の王」を思わせる。17話ではそうした作風を築き上げる重要な要素の一つとなっている、声優の演技について取り上げたい。

 主人公アムロを演じる古谷徹は「巨人の星」の主人公、星飛雄馬の声を当てていることで知られていた。「巨人の星」といえば、いわゆる熱血スポ根アニメの代表作で、星飛雄馬は喜怒哀楽のはっきりした熱血漢という役どころである。しかし現代の視点でみると、彼はアルコール依存症でDVの父星一徹に育てられた典型的なアダルトチルドレンで、その性格の屈折度は正直なところ、内向的でネクラといわれたアムロの比ではない。演技者として、古谷氏はひょっとして星飛雄馬の内面を思ったとき、相当辛いものがあったのではなかと想像する。そして、内面を表現するということにおいて、本作の主人公アムロでその演技力を発揮した。
 ブライトとミライが誰もいないと思ってやってきた格納庫で、ガンダムからアムロを降ろす相談をしているのを聞いてしまったアムロは、軍服を私服に着替えて廊下をツカツカと歩いていた。その様子にただならぬものを感じたフラウが「どうしたの?」と聞くと、アムロは平静を装ってこう答える。 「ブライトさんとミライさんが、僕は不必要だっていうんだ。だから、船を降りるんだよ」そして、そんな彼を引き止めようとするフラウに言うのである。

「止めるな!」

 平静を装うアムロのかすかな震え声、そして「止めるな!」の一言にこめられた怒りと哀しみの入り交じった複雑な感情。実際にフラウは「そんなことしちゃダメ」などとアムロに思いとどまるよう促す言葉は発していないのだが、フラウがきっと止めるだろうと見越して「止めるな」というところにある、ある種の甘えの感情。そうしたものが、この一言から感じ取れるのは、脚本に書かれたこの文字列から古谷氏がアムロの感情を推し量り、それを声の演技によって表現した結果によるのである。
 当然、監督の演技指導もあっただろうが、それ以上に演者が役に入り込む、ということがある。その作品の描こうとする人物像が立体的に浮かび上がる脚本が、それをさせるのである。古谷氏演じるアムロのみならず、本作のキャラクターが魅力的に感じられる背後には、演技する声優の技量があり、そしてそれを引き出しているのは、作品そのものの引き込む力であることを、やはり感じずにはおれないのである。

<今回の戦場> 
中央アジア 天山山脈山麓・タクラマカン砂漠北西部(現在の中国・キルギス国境付近)
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ジオン軍の鉱山基地を攻撃するが、アムロの命令違反でランバ・ラル隊の迎撃に対処できず、撤退。
■ジオン公国軍:ランバ・ラル隊はマ・クベの支援を受けホワイトベースを攻撃するがガンダムの前に撤退を余儀なくされる。捕虜のコズンはホワイトベース脱出に失敗し死亡。

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇