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 機甲艦隊ダイラガーXV(1982) 各話レビュー

 第11話「つかの間の休戦」

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俺たちは同じ仲間じゃないか、
お互いにガルベストンや 地球の命令を受けて、
銀河探査をしているだけだ。

あらすじ

 グラモン艦隊で戦闘機隊の訓練を続けていたガルベストン兵士シムは接触事故を起こして惑星に墜落してしまった。遺跡惑星にはラガーガードがおり、収容したシムとラガーメンバーの心の交流が描かれる。しかし、シムが地球側の手に落ちたことを知った隊長のグラモンはガルベストンの秘密が漏れることを防ぐため、シムの抹殺を全軍に指令する。

見どころ

 10話以降はそれまであまり取り上げられなかったラガーメンバー個々のエピソードがメインとなっている。今回のメインは出雲タツオでダイラガーの右足下パーツの操縦士である。この11話はダイラガー全52話の中でも異色の話で、まず、全編を通してバトルマシンはおろか、ダイラガーの合体シーンもなく、ラガーマシンすらほとんど出ない。搭乗するシーンさえなく、ほとんどの話が探査船ラガーガードの食堂と前話から駐留している遺跡惑星の地上で進められる。11話は制作陣に取っても印象的な話だったらしく、シムの名と彼の最期の場面は後の話でも度々引用されている。悲劇的な結末でドラマ性の高い11話はハンカチなしでは見られない話である。

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 ベテラン脚本家の「二重のコンテクスト」はこの11話でもフルに活用されている。墜落してラガーガードに保護されたシムだが、話は全編微妙な緊張感に包まれている。「今までガルベストンのせいで俺たちの仲間が何人犠牲になった!」、ガルベストン兵士を保護することに反発する出雲だが、他のクルーは負傷したシムに寛大な態度を示す。「お前だってシムの仲間を殺しているかもしれないんだ!」、シムを非難する出雲に伊勢の鉄拳が飛ぶ。

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「俺たちは同じ仲間じゃないか、お互いにガルベストンや地球の命令を受けて、銀河探査をしているだけだ。」

 今週の言葉は伊勢シンジ、シムに対する扱いは理性的だが、出雲が示したようなガルベストンに対する感情は実は他のクルーも共有している。彼らの忍耐の理由は話の最後に明らかになる。その後、艦長アシモフは戦闘機を修理してシムを艦隊に送還することを決めるが、すでにシム抹殺を決めているグラモンの言葉もあり、この寛容さは偽善性さえ感じさせ、逆に視聴者を不安にさせる。

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「出雲、俺の星のことを許してくれ、さあ、仲直りだ」、ラガーチームの歓待を受けつつ、意を決したシムはただ一人彼を拒絶していたラガーメンバー、出雲に近づき、右手を差し出す。それまで場面を覆っていた偽善的で空々しい空気が消える瞬間である。シムと和解した出雲の提案で彼の戦闘機を修理するラガーチームだが、不器用な彼らの様子は敵機の修繕を拒絶していた整備員たちの心をも動かした。そしてグラモンが到着し、ラガーガードにシムの引渡しを求める。「彼は事故のことで心を痛めている、ぜひ寛容の心で受け入れて欲しい」、伊勢の申し出に愛想良く返答したグラモンだったがシムを生かしておく意思はなく、送還されたシム機をグラモンは無慈悲に撃墜する。

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「またやり直しか」、撃墜されたシム機に唇を噛むウォルター、目を伏せる加賀とパティ、「シム行くな!」発進直前に機上のシムに絶叫した出雲、実はみんな分かっていたのである。ガルベストンのような軍国主義国家が捕虜になった兵士をそのまま受け容れるはずがないことを。「ラガーガードに来い、俺たちと一緒に銀河を探査しようじゃないか!」、墜落した機体に駆け寄り、傷を負ったシムに呼びかける出雲。「もういい、、十分だ」、出雲に離れるように言い、申し出を拒絶したシムは爆散する愛機と運命を共にする。

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「なぜだ、なぜ仲間まで殺さなきゃいけないんだ」。炎上するシム機の目前で膝をつく出雲。「シムに俺たちの夢を託した」、苦悶する安芸、内なる感情を押し殺し、個々にぎこちなく笑って兵士に罪はないと言い、冷酷なガルベストンの体制を知りつつも、和平への微かな希望を託した彼らの願いは無残に潰えた。それでもなお、ガルベストンとの戦いが続く限り、彼らは敵との対話を続けようとするに違いない。地球探査隊がガルベストンに対して正しさを主張しうる理由があるとすれば、それがただ一つの「彼ら」との違いなのだから。

キャラクター紹介

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出雲タツオ (CV速水奨)

 ダイラガーの右足下パーツ(タツオマシン)の操縦士、カイラガーチーム所属、やや根暗でペシミストのラガーメンバーで捕虜となったシムに最初は憎悪の視線を向けていた。しかし後に和解し、その後は率先してシム機の修理を手伝うようになる。撃墜されたシム機に駆け寄るシーンが印象的だが、敵意を示しつつも、実は彼がいちばん捕虜のことを気に掛け、気を遣っていたことが分かる場面でもある。カイラガーチームにはカラテヤ(黒人)とカッツ(サラ星人)という二大無言キャラ、背景キャラがいるが、タツオはマイナーメンバーの中では比較的台詞は多い方である。


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シム (CV塩沢兼人)

 ガルベストン、グラモン艦隊所属の戦闘機隊パイロット、艦隊での階級は「戦闘機隊勇士」、一応艦隊のトップガンだと思われる。演習中の事故でラガーガード近くに不時着し、以降、同艦の捕虜になる。ガルベストン兵士は無個性な仮面の割には仮面を脱ぐと政府批判をしたり、自然保護に理解を示したり、食事に不平を言ったり、上層部の情報に通暁するなど個性的な面々が多いが、ラガーメンバーと心を通わせたシムはその最初の兵士である。本星に弟がおり、彼の死は最終回に意外な形で影響を及ぼす。軍国的なガルベストンの体制から、グラモンが帰還した自分を処刑することは予期していた。出雲の制止を振り切って戦闘機に乗り込み、グラモン艦に撃墜されて最期を迎える。誇り高いガルベストンの兵士であり、捕虜になっても地球への亡命は考えていなかった。

今週のバトルマシン(0分)

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ダイラガー爆雷

 番組の視聴率と超合金の売れ行き好調からスポンサーに対しても優位に立った東映制作陣は今話では本格的なSFドラマと人間ドラマにはどうしても邪魔な存在、彼ら自身何とかしたいと思っていた作品の宿痾、ポビー社(超合金の会社)村上克司デザインのいかにもな造形でSFの品格を毀損する極彩色のダイラガー(番組制作前に超合金が完成していたので彼らにはどうしようもなかった)と、お子様しか喜ばない怪獣映画まがいのバトルマシン戦の放逐についに成功する。出撃シーンすら割愛されたので3分以上の時間が浮き、それを全てドラマに注ぎ込んだ結果、第11話はシリーズの中でも屈指の名エピソードに仕上がっている。合体ロボなんかいらないのである。従ってこのコーナーで紹介する戦いもないが、それではコーナーが持たないので、今回はダイラガーの武器を紹介する。

 今回紹介するダイラガー爆雷はダイラガーの胴体部分、カイラガーチームのキーツマシンから放出される宇宙爆雷である。放出後は浮上して爆発する。第9話でグラモン艦隊のマシンに対して用いられたが、こんなでたらめな武器の使用例は合体状態では後にも先にもこれ一回である。ただでさえ強いのに爆雷なんかひきょうだと思うが、ダイラガーは合体状態でも各マシン固有の武器を使うことができるのだ。良く似た兵器に分離状態のクロイツマシンが使用する回転ミサイルがあり、また爆雷は類似品がガルベストンでも用いられている。これで探査マシンだと言われても、このように爆薬まで装備した、反則レスラーのような全身兇悪な武器のカタマリであるダイラガーの仕様を見れば(持っていないのは核爆弾くらいである)、ガルベストンも含め誰もこれが平和利用のためのロボだとは信じないだろう。

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