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An another tale of Z

  「宇宙戦艦ヤマト」全話レビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

「宇宙戦艦ヤマト」全話レビューを終えて 
ヤマトはいかにして「癒しと再生の物語」となったか(1) 
  

 当サイトのアニメレビューでは、「宇宙戦艦ヤマト2199」の放映をきっかけに遡る形で「2199」とその原作の「宇宙戦艦ヤマト」「宇宙戦艦ヤマト2」の全話レビューを手がけ、このほど完成しました。その中でもすべての原点である「宇宙戦艦ヤマト」を小林昭人さんとともに振り返りながら、ヤマトをヤマトたらしめているものは何かについて、解き明かしていきます。

意外に設定が穴だらけだった「ガンダム」

■カオル こんにちは。当サイトの管理人の飛田カオルです。

■小林 こんにちは。「An another tale of Z」作者の小林昭人です。

■カオル お久しぶりです。ガンダムAGE以来のインタビューになりますね。この間も小林さんは「ヤマト2199」「Gのレコンギスタ」そして「宇宙戦艦ヤマト2」と、着々とレビューを進めてこられました。私の方も「宇宙戦艦ヤマト」のレビューが終わり、今は「機動戦士ガンダム」、いわゆるファーストガンダムのレビューを進めています。
 小林さんも、最近「ファースト」を再視聴したそうですね。実は久々に見てみて「あれ?思ったより設定とか、あまり詰められていないな」と思うことが多々ありました。例えば大気圏突入後のホワイトベースの進路など、かなり適当だったんじゃないでしょうか?

■小林 そうですね、当時はソ連が健在で、アメリカやヨーロッパに向かうにはアンカレジ経由が通常でしたから、カオルさんの考察は私も支持しますが、シャアの奸計で地球のアリゾナに落ちたホワイトベースは結構遠回りな航跡を辿っていますね。連邦軍本部のジャブローに向かうなら真っ直ぐ南下した方が早かったのですが、昔のハワイ経由のような航路で太平洋を横断してヨーロッパに向かっていますね。思うに、この話の時点では設定があまり詰められていなかったのではないでしょうか。

■カオル ジャブローが南米というのもまだ決まっていなかった?

■小林 「地球連邦=旧ソ連」というのは私の考えですが、反攻作戦がオデッサで行われたことを見ても、連邦の重要拠点がユーラシア大陸の西側、今で言うヨーロッパであることは意識されていたと思います。そうなると最短はやはりアンカレジ経由ですが、途中にはジオン軍の拠点キャリフォルニア・ベースがあり、ガルマのいたところですね。ここは回避する必要があったとすると、当時の国鉄時刻表(外国航空路も掲載されていた)を見た当時のスタッフがもう一つの路線であるハワイ航路を選んだことは理解できます。ところでカオルさん、13話でアムロが母親と再会していますが、あなたはこの場所はどこだと思いますか? 一応通説では日本の鳥取砂丘らしいですが、私は違うんじゃないかと思うんですよ。 

■カオル 13話の冒頭で、ミライとセイラが水着姿を披露していますよね。V作戦が始まったのが9月と考えると日本で海水浴は時期的に不自然です。私はハワイかグアム辺りではないかと思っているのですが、どうでしょう?

■小林 そうなんじゃないかと思いますよ。グアムやサイパンは航路から外れるんですがね。次の話(ククルス・ドアン)も島が舞台ですし、おっしゃるように時期もありますから、その辺の地域が妥当でしょう。これは国鉄時刻表の巻末にあったパンナムのハワイ航路ですよ。

■カオル 時刻表ですか、なるほど。普通は地球儀を見て決めるものかなと思うんですが、どうもそうではなさそうですね。その辺り、ヤマトのスタッフとは意識がかなり違うように思います。あと、ホワイトベースの大きさについても、作画の不安定さも相まって、一体どのくらいなのか正確なところがよくわからない。10話で雨天野球場にホワイトベースを隠す場面があるのですが、全長200メートル以上あるという今明らかにされている設定では、あの球場にはとうてい入らない。ヤマトには、そういうスケール上の設定の怪しさはあまり感じなかったように思うんです。そういった意味で、ヤマトとガンダムは、ちょっとタイプが違うのではないでしょうか。

■小林 ヤマトの場合は画面に出る設定はスタッフ間で一通り議論して出しているようですが、ガンダムの場合は「言いっぱなし」、「言ったきり」という話がヤマトよりだいぶ多いです。制作体制も違うように見えますし、今挙げたホワイトベースの大きさなんか明らかに後付けのデタラメですね。そもそもこの時代のSFアニメの船やロボットの大きさなんて視聴者も脳内補正していて本当のところは分からない、あえて聞かないものなのですよ。サラミスの艦底からGMが続々発進してくる世界なんですから。ガンダムだって全長60メートルくらいの絵で出てきたこともありますしね。ヤマトはその点、まだ統一が図られていましたが、ガンダムは複数のグループが競作していたようで、意外と設定の統一性は取れていません。これは監督の富野さんが単純に経験不足で弱かったんでしょうね。



■カオル 富野さんが監督業に慣れていなかった?

■小林  彼は虫プロ以来のベテランですが、4クール50話のアニメの監督をするのは初めてだったはずです。それに後に知られるように狷介な性格ですから、こんな人じゃ星山博之や安彦良和は統御できません。特に安彦はヤマトでは同じスタジオで絵コンテを切っていた同格の演出家ですからね。私の見立てでは富野さんはガンダムを制作していた数グループのうちの一リーダーにすぎません。名前だけ監督という地位に不満があったから突飛な演出をして存在感を示そうとしたわけです。その行き着いた先が「ニュータイプ」なんですがね。こんなの彼は誰とも相談していなかった。

■カオル 確かにTV版を見るとよくわかるのですが、「ニュータイプ」という言葉はかなり唐突に登場しましたね。脚本からも、扱いに戸惑いがあることが見て取れました。それでいて、最終回では「ニュータイプ」の概念を使って感動的なラストを導きました。脚本家の力量を感じましたね。
 このように、ガンダムは現在のイメージとは裏腹に、細かい設定はさておき、やりたいことをやろうというノリや思いつきで、勢いに乗って作られた作品だというのが全話を再視聴して得た実感です。
 ヤマトというのは、これとは反対に非常に深くまで検討され、綿密に構築された作品であると私は感じました。今回のインタビューは、このヤマトの、ヤマトをヤマトたらしめているものについて、ともに掘り下げていきたいと思います。

→つづく

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