MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 ATZ第三部連載を終えて 小林昭人さんインタビュー

作り手の側からもメッセージを送る必要がある。
だからATZではかなり踏み込んだ提案もしています。

5.今求められている創作者の姿勢

■カオル 登場人物の過去、そして過去の時代に人々はどのような決断をし、どのような行動をしたかということが掘り下げられ、現在の物語と絡み合っていく第三部ですが、それだけではなく、ここで語られる状況は、私たちが生きている現実を投影しているということも、読者の方は感じられるのではないかと思います。第三部の執筆にあたっては、そのようなことも意識されたのですか?

■小林 作品を執筆しつつ考えていたのは、やっぱりこういう作品というのは「時代に立ち向かう必要がある」ということです。今は大変な時代になっていますが、そういった中で現実離れした境遇の煌びやかな男女ばかりを描いていても虚しいですし、逆に露悪的になって、これはこういうものと現実肯定にばかり走るのも意味ないと思います。作品の時代を作者なりに解釈して、提案や提言をしていく必要というのは、これに限らずどんな作品でも必要ではないでしょうか。

■カオル「時代に立ち向かう」とは、具体的にはどういうことでしょうか。

■小林 書きつつつくづく思ったことは、今は1985年と違うということですね。85年のテンプレというのは、私は「サザエさん」と「ドラえもん」だと思うんですよ。典型的な中産階級の家庭が描かれていて、それが視聴者の実情でもあった。のび太の父親はあれは明らかに地方から上京してきてサラリーマンやっている人ですね。大学を卒業して東京の企業に就職したと。サザエさんのマスオさんも、ああいう家庭は割とあったと思います。
 ところが、この作品を書いた2005年とか改訂した2011年となると事情が違ってきていて、子供がアニメを見るのは子供の勝手ですが、肝心の親がリストラされたり無職だったりという状況が頻出しているように見えるんですね。安定というのがそもそもない。子供向けアニメというのは、私は親が仕事で見れない時間帯に放送するものだ(少なくともナイターよりは優先順位が低い)ということを考えると、「子供番組を大人も一緒に見ている」という光景を観念せざるを得ないわけです。それは不幸な話ですが、そういった大人たちにとって、子供アニメのあっけらかんな世界はどう映るかというのは、考えておかなきゃいかんことなんですね。
 というわけで、これは作り手の側からもメッセージを送る必要があると考えるわけです。ATZの世界は様々な事件を扱いつつ、場所によってはかなり踏み込んだ提案もしています。もちろんメインは10歳のお子様でも読める作品ですから、そんなにリアルに書いていませんし、細かくもありません。しかし、ある種の思考実験というか、シミュレーションを提示はしているんですよね。作品の作り手としては、85年式のテンプレで作品を作って、それが親に拒絶されるというのはいちばん嫌なことなんですよね。ZとかZZとかも、今となって見れば豊かな時代の、あまりにも楽観的な個人主義がそこにあることは否めません。しかし、2000年代という時代は、もっと根っこの部分から考えて提案しなきゃいけない。

■カオル 今という時代に、受け手である立場の人が置かれている状況を考慮して、今にふさわしいメッセージを送るということですね。根っこの部分からの提案というと、小林さんはどのようなことを考えられたのでしょうか。

■小林 例えばZZでジュドーが「俺は自分の力で生きていく」と言って、エウーゴに参加することを拒絶する場面がありますが、85年としては頼もしいこれも、今となっては「老後どうすんの」、「ケガしたらどうすんの」とツッコミを入れたくなる痛い場面に映ってしまう。それが時代の違いなんですが、スタートレックはその点ではガンダムよりずっと進んでいましたね。そういう所でアラのない作品にしなきゃいけない。やっぱりZZで工場でワッパが演説する場面がありますが、そこでの労働者の表情というのはホント、無感情、無表情ですね。しかし、それも「関係ない」とは言えないのが2000年という時代です。
 そういう視座は、実のところ、今ある作品ではATZしかないと思います。基本にあるのは視聴者の目線ですが、その目線というのは時代が進むに連れ、実は大きく変わっています。

■カオル 視聴者の置かれた現実の視座に立つことで、「今」という時代に立ち向かう姿勢が生まれ、そこから現実に根ざした提案がなされていくわけですね。

■小林 ただ、現代よりだいぶ先の物語という感覚があるので、実は作者は「現実に根ざす」といっても、かなりの要素を取捨選択しています。あるものは現代より進めたり、あるものは遅らせたりという概念操作をかなり細かくやっています。ほとんど気づかない人の方が多いと思いますが、この作品で今と同じ名前である制度は千年先でも同じものとしてあるでしょうし、逆に無関心かほとんど取り上げられないものは、この時代には無視すべきか消滅しているだろうという作者の解釈が実はあります。


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