著作集 |
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宝島社 別冊宝島757
僕たちの好きなガンダム
『機動戦士Zガンダム』全エピソード徹底解析編
2003年4月1日発行 定価:本体933円+税
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Zの女たち |
■ファ・ユイリィ
可愛くて一途なご近所さんのガールフレンド。ファ・ユイリィはそんな、一見どこにでもいそうな女の子です。しかし、なぜかカミーユという、やたら傍若無人ですぐキレる、生意気盛りの少年のが気になって仕方がないのです。そして気になるあまり、やれ爪を噛むのはやめろだとか、そっちへ行くなとか、まるで母親のように口やかましく付きまとってくるのです。このお年頃にはありがちなことです。
しかし、彼女とてただのフツーの女の子ではないんです。カミーユが気になるあまり、アーガマのクルーになったばかりか、ろくに訓練も受けていないのにメタスで出撃までするようになってしまう。さすがのカミーユもこの執着心には恐怖したのでは。こんなふうにどこまでもついてくるファの行動を「健気」とみるか「鬱陶しい」とみるかで、彼女の評価はまったく変わってきます。あれほどつきまとわれたら、「可愛い」と思えるのははっきりいって最初のうちだけかも。
■エマ・シーン
日系9世という意外なプロフィールを持っているからか、どうなっているのかよくわからない髪型のせいなのか、元ティターンズ士官というだけではない高貴さが印象的。「〜ではなくて?」というお嬢言葉にも、育ちの良さが表れています。ファのようなお姉さん気取りの女の子につきまとわれていたカミーユには、この本物の「お姉さま」は衝撃だったのでは。しかし彼女はティターンズから寝返るほどの信念を持った人。惚れたはれたの色恋沙汰には脚を突っ込まず、ヘンケン艦長からの熱烈なアプローチもさりげなくかわす辺り、大人を感じさせます。ティターンズ育ちだけあって怒ると手が出るタイプで、カミーユはしょっちゅうひっぱたかれていました。まさに「恋より仕事」な女性ですが、案外まだ本当の恋をしていないのかもしれません。2年半前に偶然出会った暗い青年がよほど印象的だったようですが、彼女の心を動かすのは、実はそういうタイプなのでしょうか。
■ライラ・ミラ・ライラ
ライラは男性多数を従えて肩で風を切って歩く、まさに「姉御」という言葉がぴったりくる女性です。男には絶対負けたくないという思いが、瞳の中にいつもギラギラと煮えたぎっているのです。こういうタイプの女性は、明らかに自分より強い男はキライです。だからといって弱すぎるのもいただけません。自身の手で、自分好みの強い男に仕立て上げる。そこに喜びを感じるのです。まさに、光源氏の逆をゆく「逆光源氏計画」です。その候補になったのがジェリドでした。ライラにとっては、自分よりバカで、技量が下で、しかし落ち込むほど繊細な神経は持ち合わせていないため、打たれても打たれてもまた這い上がってくるという、実に都合の良い存在だったのです。ですからライラに気に入られたいなら屁理屈をこねるのはやめにして、猪突猛進なところを見せるとよいでしょう。ケンカを売るのも一つの手ですが、下手をすると命を落としかねないので注意が必要です。
■レコア・ロンド
レコアといえば、自室でサボテンを育てていましたが、まさに彼女はサボテンのような女性です。言葉や態度の端々に棘があって、近づく人をチクチクと刺す。そんな感じの人なのです。シロッコのような厚顔無恥な男でなかったら、とても彼女を癒すことはできないでしょう。彼女はエマとは対照的に、やたら男と女の関係にこだわっていました。レコアにとっては、戦場も恋人探しの場でしかなかったようです。そんな彼女をつかまえて「君は安らぎを求めてここへ来たのだ」と言えるシロッコは大した男ですが、それは彼がレコアの聞きたがっているような言葉を並べているだけのことで、彼が本当に傷ついた女性を癒すことのできるイイ男だというわけではありません。本当の意味で彼女を充足させるには、棘に刺されるのも構わず、血を流してでも彼女を抱きしめる勇気が必要でしょう。クワトロにはそんな気はさらさらなく、カミーユでは共倒れになっていました。
■ロザミア・バダム
カミーユよりずっと年上に見えるのに、口を開けばいきなり「お兄ちゃん!」。このギャップにたじろいでいるうちに、すっかり彼女のペースに巻き込まれてしまう…。それがロザミアです。「この子、頭だいじょうぶ?」などとつい勘ぐってしまうために、腕を組んだり抱きつかれたりしても、おちおちラブラブ気分に浸っていられないのです。
しかし、お兄ちゃんと言いながら、あの密着ぶりはどうでしょう。兄という存在について間違った認識をしているようです。あるいはその時だけ、子どもに返ってしまうのでしょうか。そんな彼女の無邪気さをいいことに、身体検査に同席して裸身を拝ませてもらおうなどと思ってはいけません。彼女とてバカではないのです。見え透いた下心は身の破滅を招くことになりますから、身に危険を感じたら、とっとと逃げ出すのが無難です。ロザミアのことなら大丈夫。1週間もたてば別の男を「お兄ちゃん」と呼んでいるでしょう。
■ベルトーチカ・イルマ
ベルトーチカは自己中を絵に描いたような女性なので、気弱な人なら1分一緒にいるだけですっかり疲れてしまうでしょう。そんな彼女に目を付けられたアムロは、まさに弱り目に祟り目だったのでは。彼女が戦争を嫌いながらも戦いの中に身を置いているのには、それなりの理由がありました。それは、自分の魅力で男を奮い立たせて、自分のために戦うヒーローを祭り上げること。すばやくアムロを捕捉したのは、女の本能のなせる業でしょうか。男を利用して自分を高める、嫌なタイプに思えるのですが、戦いを前に恐怖に身がすくむアムロの苦悩を目の当たりにして、その気持ちが本物の愛に変わります。しかし根が自己中のワガママ娘ですから、今度は自分の愛を貫くためになりふり構わず行動し、結局何をやっても反感を買うことには変わりないのです。彼女の場合は反感をエネルギーにどんどん増長しますから、地球圏の平和のためにも、アムロに任せておきましょう。
■フォウ・ムラサメ
初対面でいきなり「キスして」と迫る大胆さにカミーユは落ちてしまいましたが、彼女の境遇を考えると、はっきりいって好みの男性ならだれでも良いのかもしれません。彼女にとって恋愛は、自分らしさを取り戻すためのステップなのです。その相手がたまたまカミーユだったわけですが、彼の優しさを上回る情緒不安定さが、二人の関係を切ないものにしてしまいました。ある意味、「似たもの同士は惹かれ合う」の典型だったといえるでしょう。
つかの間の休息時に見せる笑顔や恋する人を迎える態度には大いに癒されますが、反面、「頭が痛い」などと言い出したときの豹変ぶりにもまた驚かされます。「強化人間だから仕方がない」という見方もありますが、もとからあった性格が強化されてそうなっているのかもしれません。地雷を踏んだと思ったら、すぐさま射程外へ逃避するべきでしょう。丸腰であってさえ、怒り狂った女性は始末に負えないものですから。
■マウアー・ファラオ
シロッコの危険性を見抜いた鋭い才覚の持ち主ということになっていますが、どうなんでしょう。案外、彼がサラとかいう年端もいかない少女にまで守備範囲を広げたことが面白くなかっただけということもあり得ます。ジェリドに目をつけたのは、単に彼が自分の意のままに動かせそうだったと感じたからかもしれませんが、いつの間にか、この男のために命を懸けてしまうほどラブラブになってしまいます。「あなたについていくつもりで来たのよ。死にはしないわ、あなたが守ってくれるから」とまで言ってしまうほどに…。ジェリドの何がそうさせたのか?と不思議に思うところです。
マウアーのような聡明な女性は、ともすれば物事を複雑に考えすぎて鬱になってしまうことがありそうです。そんな彼女には、ジェリドの単純明快さ、つまり「おバカ」さがかえって救いになったのかもしれません。駆け引きの勝者だけが、恋愛の勝ち組になれるわけではないという見本です。
■サラ・ザビアロフ
シロッコ一筋に生きる少女といえば聞こえはいいのですが、一途すぎて、シロッコに近づいてくる女性士官にことごとく火花を散らしている困った娘です。赤の他人には、自分が怪しいお兄さんに騙されている少女にしか見えないということがわかっていません。それが揺らぐのは、カツという、シロッコとは対局にいるような少年との出会いのときでした。彼女はカツが自分に好意を抱いているのを感じて、カツをまんまと利用しましたが、それこそまさに、シロッコに対する自分ではないかと思ったのではないでしょうか。「フツーの女の子のフツーの青春」という思いもそんなところからきたのでしょうが、だからといってシロッコよりカツに夢中になれと言う方がムリな話です。シロッコに冷たくあしらわれて心にすきま風が吹いている頃合いを見計らって、シロッコに対する不満を聞いてあげることができたら、次第にフツーの女の子の表情を取り戻していくことでしょう。
■ハマーン・カーン
鋭い眼光と高圧的な口調で、まったく可愛いところが感じられない女性ですが、それがかえって心に強烈な印象を残します。実はシャアがアクシズにいた頃、ふたりは恋人関係にあったといわれていますが、その頃のあどけない笑顔は、そのクールな表情の下に封印されています。だからとってもガードの堅い女性なのです。ザビ家再興を掲げて暗躍し、エゥーゴとの熾烈な戦いは、彼女が「もし、私の元に戻ってくる気があるのなら…」という一言を発するための前ふりでしかなかったのかもしれません。そんなシャイで臆病な一面が、男心をくすぐるのでしょう。彼女の挑発的な言動は、気がある証拠なのです。
逆にいえば、一度惚れたら戦争に持ち込んでまでも振り返させるほどのめりこむタイプといってもいいでしょう。そんな彼女にアプローチするなら、墓場まで離れずについていく覚悟でなければなりません。別れるにしても迫るにしても、修羅場を見るのは必至です。
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Zの女たち コラム |
Zガンダムの戦場は実に華やかである。前作のガンダムでも女性の活躍が目立ったが、Zでは単に数が増えただけでなく、実力的にも男性兵士と伯仲しているのである。
この背景には、やはり先の一年戦争の影響があるだろう。一つは先の大戦時に彼女たちが、戦禍で親をなくし、また自分自身も戦禍に巻き込まれるなどしたために、自分で自分を守る経験をしたということがある。優れた判断力と戦闘力を身につけた女性は、自らの理想のために戦うことを厭わなくなった。
もう一つは、先の大戦での人的損失がある。特にヴェテランの粋に達した渋いオヤジ系軍人の損耗は大きかった。その隙間を埋める形で、ジェリドのような若造…もとい、ルーキーが台頭することとなり、同時に女性が進出してきたものと思われる。
このような女性たちの活躍に圧倒される一方で、一人ぐらい、ランバ・ラルのような硬派なオヤジキャラがいて欲しかった…と思うのは、私だけだろうか。 |
第6話「地球圏へ」 レビュー |
第一話でカミーユに殴り飛ばされて以来、ティターンズに泥を塗りっぱなしのジェリド・メサ中尉。そんな彼に、こともあろうに“いい男”の素質を見いだすのがライラ・ミラ・ライラ大尉である。彼女がジェリドに与えた教訓は何だったのか。
その一。女性に声をかける時、「待ちなよ」などと言ってはいけない。普通の女性なら、それだけで怒り心頭、無視されても文句は言えないであろう。
その二。いきなり女性に殴りかかってはいけない。難なくかわしたライラは顔面に足蹴を食らわせているが、男はそんな目に遭わされても決してやり返してはならないのだ。
その三。教えを請うときに馴れ馴れしく肩を掴んだりしてはいけない。どうやら自分のペースに持ち込むのがジェリドの手のようだが、ライラは、そんなやり方は自分には通用しないという。「相手に合わせる」ことのできない男は女の敵である。
その四。相手の仕草や態度をよく見、話をよく聞くこと。『話を聞かない男、地図が読めない女』は人類不変の法則の一つだが、にもかかわらず女は常に、男に話を聞かせたがるのである。
その五。本気なところを見せると、女の心は動く。ガンダムMk-IIを倒したいというジェリドに「なぜ?」という質問を浴びせるライラ。ジェリドにも「カミーユ憎し」以外に考えていることがあったのか!と驚かされるが、ティターンズを仕切りたいという野心が芽生えたようである。それをさせたのもライラの存在によるところが大きいのかもしれないが。
ところでライラはそんなジェリドのどこに“いい男”の素質を見いだしたのか。それは次のセリフでわかるだろう。
「恥を上乗せしにくるなんて、律儀だね」。そう、女は律儀=マメな男に弱いのだ。
しかしライラは志半ばにして倒れ、ジェリドの律儀さは、カミーユを追撃するストーカー行為に発揮されたのみであった。“いい男”はいい女の存在なしには完成しないのである。 |
第15話「カツの出撃」 レビュー |
正直に言おう。誰もカツには期待していない。この回の主役は初出撃のカツではない。これは、ただ一人出撃しなかった男の物語である。
7年ぶりに再会したシャアとアムロは、出会う前から互いの存在を感じ取っている。まさに恋人以上の仲である。そして、輸送機をぶつけてアウムドラを守ったアムロの活躍。カミーユのキレっぷりにうんざりしていた大人のファンにとって、アムロの復活はまさに福音と思われた。しかしここで見事に復活を遂げたのは、天才的パイロットのアムロではなく、あの“元祖”爪を噛むいじけたヒーローだったのだ。
ハヤトに再会しても浮かない表情のアムロに、さらに敵に塩を送る…ではなく「傷口に塩を擦り込む」ような口撃を展開するシャアの毒舌は圧巻である。なぜ地球圏に戻ってきたのか、というアムロの問いに「君を笑いにきた」とまず一撃。「カツ君の期待に応えるアムロ・レイであってほしい」と、痛いところを突いて牽制し、そこにララァの名前を持ち出して痛恨の一撃。そしてトドメが「籠の中の鳥は鑑賞される道具でしかないと覚えておいてくれ」である。言われっぱなしの情けないアムロを見ながら、思わずテレビの前で爪を噛んで自虐的な気分に浸るのは、間違いなくファースト世代の老兵であろう。古き時代が去ったことを否応なく思い知らされる瞬間である。
そしてついにアムロがノーマルスーツに袖を通したとき、真実が明らかになる。「戦うのが怖い…」。それは、周囲の期待に応えることに無我夢中の少年たちには知りようのない心の闇であった。しかし、悩める男の姿こそ女のハートを刺激する。ベルトーチカは戦闘の恐怖に身体がすくむアムロに人間性を見いだした。一方のシャア=クワトロといえば、「どうしたのだ、アムロ君」と、アムロの苦悩にまるで気付いていないおとぼけぶりを密かに暴露していたのであった。真の復活は、このあとやってくる。闇が暗いほど、光は輝くのだ。 |
第32話「謎のモビルスーツ」 レビュー |
Zガンダムには数多くのカップルが登場するが、クワトロとレコアの関係は微妙である。当初から普通以上に親密そうに見える二人なのだが、早い話が友達以上恋人未満。恋愛推進委員会の私としては、「くっつくなり別れるなり、はっきりせい!」と茶々を入れたくもなるのである。
ところでレコアといえば「裏切り者」として嫌いなキャラの筆頭に数えられているが、私自身は嫌いではない。彼女はエゥーゴを裏切ったというよりは、むしろ見限ったのではないかと思えるからだ。クワトロはパイロットとしては優秀なのかもしれないが、リーダーは部下から信頼されなければならない。ところが彼はカミーユに説教を垂れては反感を買ってばかりいる男である。自分は殻に閉じこもったまま人を変えようとする男に、レコアは疲れてしまったのかもしれない。
この回のレコアは、食堂でミルクを渡し損ねたり、植物を片づけたりと、心ここにあらずといった様子。もはや危険な状態である。「何を苦しんでいるのだ」とクワトロが問いかけてきたとき、「…わかることは何もかも捨てて、どこかへ行ってしまいたいってことよ」と思いをうち明けたのは、そんな彼女の見せた精一杯の誠意でもあった。離れていく心を引き留めてもらいたかったのだ。しかしそんなことにはまるで考えが及ばないクワトロは「それはできないな」とあっさり片づけてしまう。レコアが最後にねだったキスは、冷めた気持ちを確認する作業でしかなかった。
カミーユには「人の心の中に踏み込むには、それ相応の資格がいる」と言いながら、レコアの心に踏み込んで、言いたいことだけ言って去っていった男クワトロ。彼女を愛していなかったとしても、リーダーとしてもう少し何か言って欲しかったと思うのは、勝手な言い分なのだろうか。だからレコアには同情を禁じ得ないのであるが、結局彼女もシロッコのナンパ術に引っかっただけかと思うと、やるせない一幕なのであった。 |
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