エリア88 AREA 88

エリア882004年 日本 全12回

監督今掛勇
シリーズ構成大野木寛
原作新谷かおる「エリア88」

出演
子安武人/三木眞一郎/関智一
高橋広樹/広橋涼/大塚周夫
緑川光/雪野五月/高塚正也 他

スト−リ−

 戦場カメラマンの新庄真(シンジョウマコト)は、人間の真実をフィルムに収める被写体を求めてエリア88に降り立った。新庄のカメラから観たエリア88、そしてシン。そこにはどんな世界が展開されていくのか…。(バンダイチャンネルの作品紹介より)

レビュー

 1979年から1986年にかけて発表された、新谷かおるの漫画「エリア88」の二度目のアニメ化作品。全12話。原作は、友人の策謀で中東・アスラン王国の空軍傭兵部隊へ送り込まれた主人公、風間真の死闘を描く作品で、戦闘機による航空アクションが主体となるため、長らくアニメ化は困難とされてきた。それでも、1985年にOVAで全3話のアニメ作品が作られてはいるが、本作はCGアニメーションを導入し、迫力ある空中戦を描き出すことに成功している。

 原作は23巻、全172話に及ぶが、私自身は未読である。このレビューは、あくまでテレビアニメ12話を見た上での感想であるが、オリジナルキャラクターとして、新庄真という戦場カメラマンを、この壮大な物語のいわば案内役として立て、行方不明になったパイロット、風間真の姿を追って取材するという形で再構成されているのが、アニメ版の特徴となっている。この試みは、本作の作風とも良く調和し、非常に成功しているといってよいのではないだろうか。

 「エリア88」という作品が人気になった要因も、非常に良く理解できた。戦闘機パイロットを傭兵として雇い、高額な報酬だが厳しい契約条件で戦わせるという架空の国家、アスラン王国の基地「エリア88」という設定がまず、秀逸である。歴戦の名機ともいえる戦闘機を、傭兵パイロットは自腹で購入して戦うのである。様々な国の、マニア垂涎の戦闘機が一つのエリアで、空中戦を繰り広げる。現代にそうした、ある意味でマニアにとっての「夢の舞台」を違和感なく作り上げたことが、まず一つ。
 そして、もう一つ強く感じたことは、この物語には「原型」が存在するということである。原型とは、物語のベースとなっている神話的・歴史的モチーフである。
 主人公の風間真は大手エアライン、大和航空のパイロットとして将来を嘱望されていたが、同僚で幼なじみの神崎悟に陥れられ、アスラン王国に傭兵として送り込まれてしまうのだ。生きて日本に戻るためには戦闘に勝って報酬を得、高額な違約金を支払うか、契約満了まで生き延びねばならない。民間機パイロットとしての訓練しか受けていなかった真は、しかしそこで意外な才能を開花させ、戦闘機パイロットとして比類なき活躍を見せるのである。
 この物語と、とても良くにたアウトラインを持つ物語が実は旧約聖書の中にある。創世記に出てくるヨセフの物語である。ヨセフはヤコブの12人の息子の一人だったが、ちょっと鼻持ちならないところがあって兄弟たちから恨みを買い、砂漠でイシュマエル人の商人に売り飛ばされてしまう。そして奴隷としてエジプト人に買い取られ、ファラオの役人であったポテパルの家で働くことになる。そこでポテパルの信頼を得て家の管理をみな任されるようになるのだが、ポテパルの妻との不倫疑惑を立てられ、囚人として牢獄につながれてしまい…、という物語である。

 捕われた悲劇の主人公、彼を売り飛ばしたライバル、異国での孤独な戦い、そして自分を売り飛ばした者との来るべき対決…。普遍的物語を土台に持つことで、この作品は12話という制約があっても、ドキドキ、ハラハラさせる物語の力を失うことはなかった。

 12話で取り上げられているのは原作の序盤〜中盤までの物語で、主人公風間真を売り飛ばした同僚・神崎との直接対決までは描かれないが、語り手として登場するカメラマン、新庄が、最後の対決を予兆させる重要な役割を果たす。その意味でも、オリジナルキャラクターとして非常に良いポジションを得たといえるだろう。もう一人、オリジナルキャラクターとして女性パイロットのキトリが登場するが、こちらの方は思ったほど効果的な使われ方がされずに終わった。

 特に私が個人的に好きなのは、ライバル神崎と風間とが中東の砂漠の上空で、互いにそうとは知らずニアミスする話。これは、ハラハラするだけでなく人の心の深淵をのぞき見るようなドキドキ感があった。「音速のタイトロープ」は、原作のベストワンともいえる話だろうが、本作の脚色はイマイチなような気がした。カメラマン・新庄のキャラクターを生かしたオリジナルストーリーもあり、これはアニメ版ならではで良かったと思う。12話の作話には、ライターによって完成度にバラつきがあることは否めない。また風間真以外のパイロットのキャラクターの掘り下げも物足りなかったように思う。

 毎回のクライマックスである戦闘シーンは、戦闘機マニアの方々には非常に評判が悪かったようである。戦闘機の発着や空中戦での動きなどではいろいろと、粗が目立つようであるが、私はその方面には疎いので、その点についてはよく分からない。そして、そういう人にとっては、あまりそういうところは問題にならない、というのがこの手の作品のワナであって、そういうところまで、いかに専門性の高い描写にこだわれるかどうかが、作品をより高いレベルへ引き上げる要素となる。この点では、日本はまだあまり高い水準にあるとはいえないだろう。

 ともあれ、専門性にこだわるならば、航空自衛隊の全面協力により製作された国産スカイアクション映画、織田裕二主演の「ベスト・ガイ」という珍品があるので、そちらの方をおすすめしたい。

評点 ★★★


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