機動戦士ガンダム第08MS小隊
MOBILE SUIT GUNDAM The 08th MS team

0083 1991年〜1992年にOVAにて販売

原作矢立肇/富野由悠季
監督
神田武幸(1〜5話)
飯田馬之介(6〜11話)
脚本桶谷顕/北嶋博明
キャラクターデザイン川元利浩
モビルスーツ原案大河原邦男
メカニカルスタイリング河森正治
メカニカルデザイン
大河原邦男/カトキハジメ/山根公利
美術池田繁美
音楽田中公平

スト−リ−

 宇宙世紀0079年、一年戦争勃発から半年以上たったある日。地球へ降り立つ新兵を乗せた連邦軍の輸送艦が、地球軌道上付近を航行中に、ジオンの追撃を受ける友軍機のジムを発見する。乗り合わせた兵士のひとり、シロー・アマダは大破寸前のジムを助けるべくボールで出撃。ジムの救出に成功するが、自らも被弾し脱出。漂流中の戦艦の残骸の中で、ジオンのパイロット、アイナ・サハリンと遭遇する。最初は銃口を向け合った二人だが、危機的状況から脱出するために協力しあい、無事友軍に救出された。一時の協力関係を経て離ればなれになったシローの手には、アイナが貸した美しい時計が残されていた----。
 地上に降り立ったシロー・アマダは、アジア方面軍の機械化混成大隊麾下の第08MS小隊の小隊長に着任する。テリー・サンダースJr.、カレン・ジョシュワ、エレドア・マシス、ミケル・ニノリッチが彼の小隊のメンバーであった。カレン、エレドアといった古参の強者を相手に、新参者の上司として、シローは体当たりで信頼を勝ち得ていくが------。

物語の背景

 「ファースト」と呼ばれる第一作の「機動戦士ガンダム」と同一時間軸において展開する、外伝的ストーリーです。第一話の地球へ向かう輸送船の中で主人公のシローらが、あの有名な、ガルマ・ザビの国葬でのギレンの演説を聞いていること、ストーリーの終盤で、最大の拠点であるオデッサを奪われたジオン軍が宇宙へと撤退しようとしていることから、時期的にはちょうど、劇場版・哀戦士編と重なるといえばわかりやすいでしょう。しかし、物語としては独立した話になっているので、単独の作品としても楽しむことができます。
 作品的には、ひとつの戦隊に複数のガンダムがあること、ゲリラ的な局地戦を描いたミリタリー色の濃い、特異なものといえるでしょう。MS小隊という構成により、いわゆる「主人公メカ」としてのガンダムの存在感が抑えられ、「兵器」としてのモビルスーツという描写が極限までつきつめられています。そうしたことから、有名な戦争もののTV映画「コンバット!」を彷彿させる世界観を垣間見ることができます。一方で、ストーリーはシローとアイナの敵・味方を越えた戦場ラブ・ロマンスがメインとなっており、リアルでメカニカルな世界観と、そこに展開されるラブラブなドラマとの間にはかりしれない大きなギャップを感じて、少々後味の悪い作品となっています。

レビュー

 第08MS小隊。なんてカッコイイ響きなんでしょう♪ 小隊と聞いて思い出すのは、あのオリバー・ストーン監督の手がけた戦争映画「プラトーン」です(プラトーンは英語で「小隊」の意味)。また水木しげるのマンガ「総員玉砕せよ!」も、主人公丸山の所属する小隊の悲劇を描いた名作です。「小隊」という言葉には、戦場に生きる兵士たちの姿と、そこで展開する生々しくも悲しい人間ドラマが感じられ、私はこのタイトルの付け方からして気に入ってしまいました。「プラトーン」も「総員玉砕せよ!」も作者の実際の戦争体験をベースに生まれた作品ですが、ガンダムなら、架空のその舞台で、それに匹敵するような物語が生まれるにちがいない。そんな大きな期待を抱いて第一話を見たのです。そして、愕然とさせられたのです。「なんだ・・・これは、そういう話だったのか----!?」と。
 全13話からなるこの作品は、断片的なエピソードの積み重ねによってドラマが展開していくという形式からなっているようなのですが、私の中では非常に「よかった」部分と「大いに疑問」な部分に激しいギャップがあり、非常に複雑な印象を後に残すものとなりました。以下に「よかった」部分と「大いに疑問」な部分を説明してみたいと思います。

<よかったところ>
 戦史に残らないような小戦闘や戦場の日常を克明に描いたミリタリーな世界。第2話「密林のガンダム」、第3話「信頼への限界時間」、第5話「破られた待機命令」、第9話「最前線」。他の作品が一環した歴史の流れの上に立つ「大河ドラマ」的構造を持つのとは対照的に、泥くさい戦場、小さな部隊、そして局地戦を描いてガンダム世界の裾野を広げています。「太陽にほえろ」的刑事ドラマ風に、長いシリーズになり得る可能性を秘めた作品です。また、映像的にもすばらしいものがあります。<

<大いなる疑問・ぶっちゃけた話「キライなところ」>
 不倫の修羅場を見るような、シローとアイナの反道徳的ラブラブ模様にうんざり。今の世の中の恋愛至上主義を見れば、これも致し方ないのでしょうか? それにしても、シローのやっていることははっきりいって背徳行為で、崇高さが感じられません。「美しくない」のです。敵の女を好きになってしまったからといって、将校の肩書きを持つ身でありながら、突然戦争行為を否定するなんて、まったく戦争というものをバカにしています。そんな生き方が許されるなら、アムロとララァ、カミーユとフォウの苦しみや悲しみは一体何だったのか。バーニィを殺してしまうクリス、ただ一人その悲しい真実を知って泣く少年アルの、あの涙は何なのか。それで名前を変え、過去を捨てて二人で生きていくなんて、無責任だし都合よすぎます。
それにしても、最後にシローとアイナが二人してアプサラスを撃破するシーンは、Gガンの、あの「ラブラブ天驚拳」にそっくりです。ひょっとして、あのラストに「味をしめた」制作者が、それをリアルガンダムでも試してみたくなったのかもしれません。しか〜し!!! シローとアイナの間に、一体何があるというのか。ドモンとレインの関係の「深さ」とは、比べるべくもないであろう。私はここに、彼らを「平成のバカップル」と名付けて進ぜよう!!!----あああ、言ってしまった・・・毒舌炸裂(泣)
 <よかったところ>で書いたように、戦史に残らない小さな部隊の小戦闘を描くというこのシリーズの根幹は、刑事ドラマ的作風で実に「テレビ向き」だと思うのですが、現実問題として、今のテレビ業界に、こうした作品を番組として成立させるだけの力がもはやないことが、ガンダムの、いや、アニメ全体が直面する大きな問題といえましょう。もはやテレビに、へらへら笑えるバラエティ以上のものを、だれも期待していないのです。しかし実際、アニメはテレビという媒体なしに、発展していけるのでしょうか? 今すでに進化の袋小路に追いつめられているような気がして仕方ありません。 (2000.8.12)

評点 ★★★


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