MUDDY WALKERS 

トゥームストーン TOMBSTONE

トゥームストーン 1993年 アメリカ 130分

監督ジョージ・P・コストマス
脚本ケヴィン・ジャール

出演
カート・ラッセル
ヴァル・キルマー
サム・エリオット
ビル・パクストン
マイケル・ビーン
パワーズ・ブース
ジョアンナ・パクラ

スト−リ−

 連邦保安官としてその名の知れたワイアット・アープ(カート・ラッセル)。引退した彼は兄のバージル(サム・エリオット)、弟のモーガン(ビル・パクストン)とともに一攫千金を夢見て西部の街トゥームストーンにやって来る。そこは赤い帯が目印のギャング団「カウボーイズ」が牛耳る無法地帯だった。リーダーは赤いシャツが目印のカーリー・ビル(パワーズ・ブース)、サブリーダーは早撃ちガンマンのジョニー・リンゴ(マイケル・ビーン)。教会で結婚式を終えたばかりの新郎を射殺してしまう、血も涙もない悪党である。トゥームストーンで親友ドク・ホリディ(ヴァル・キルマー)と再会したワイアットは、ならず者の巣窟になっていた店から彼らを追い出して、兄弟とともにそこで賭博の胴元を始め、成功をおさめる。そんなアープ一家の成功が面白くないのが「カウボーイズ」。リーダーのカーリー・ビルはトゥームストーンの老保安官を射殺、街はさらに殺伐となり、ついに兄バージルと弟モーガンは保安官に復帰することを決意するが…。

レビュー

 西部劇には全然興味がなかったが、大好きなマイケル・ビーンがキャスティングされているので、オークションで大枚をはたいて(といってもまあしれているが…)DVDを買ったのだ。レディースデーなら映画が5本観られるくらいのお金が必要だったが、ムダではなかった。単純明快なストーリーながら、いろんな伏線がはられていて何度も楽しめる傑作である。

 ちょうど同時期にケヴィン・コスナーの『ワイアット・アープ』(こちらは睡眠薬のような映画として有名)が公開されたために日本では目立つことなく埋もれてしまったようだ。確かにカート・ラッセルにヴァル・キルマー、マイケル・ビーンにビル・パクストンとくれば、それも無理はない。キャスティングからして思いっきりB級ではないか。しかし、かえってそれがよかった。俳優のネームバリューより一人ひとりのキャラが立って、西部劇というなじみのない世界にすんなり入っていけるのだ。しかもこの映画、これまでさんざん脚色されてきた「OK牧場の決闘」を最も史実に忠実に映画化したらしく、ワイアット・アープ役のカート・ラッセルは実在のワイアット・アープと激似だったりする。西部開拓史を知っていれば、より一層楽しめるだろう。一方西部劇マニアからは、あまり評判がよくない。様式美へのこだわりを捨て、現代的にアレンジされているというのがその理由のようだ。

 冒頭、カーリー・ビル率いる「カウボーイズ」は結婚式を終えたばかりの新郎新婦を襲撃する。新郎は警察官で、彼らの仲間を殺したのだ。その現場を目の当たりにした神父が言った言葉の意味をカーリー・ビルに尋ねられて答えるときのジョニー・リンゴの表情が、ものすごく印象的だった。それは決していい意味ではなくて、えっ、そうなの?それでええの?という感じ。悪党であるはずのジョニー・リンゴの表情があまりにも憂いに満ちて、それでいて何かを待ちこがれているかのような目をしていたからだ。しかし、彼がこういう複雑な表情を見せる理由が、後半のワイアット・アープとドク・ホリデイとのやりとりで明らかになる。まるで見つからなかったパズルのワンピースがぴたっとはまったような快感だった。

 アヘン中毒の奥さんに内心嫌気がさしながらも、美しい旅芸人ジョセフィーヌのもとへ走っていく勇気もないワイアット・アープ。賭博の胴元で儲けて安泰な生活をしたいと、街がどんどん無法地帯化していくのも見て見ぬふりのワイアット・アープ。前半は2ちゃんねるで「こんなワイアット・アープはいやだ」というスレでも立ちそうな体たらくだから、ついつい肺病やみで今にも死にそうなドク・ホリデイを見てしまう。いやもう、いつ倒れるのかと(笑)。結局得ようとしたものは得られず、かえって多くのものを失って、とうとうブチキレるワイアット・アープ。そして倒れてしまってからのドク・ホリデイはもっとイイ。メインはこの二人の友情をからめたワイアット・アープ団とカウボーイズとの対決だが、ワイアット・アープ×カーリー・ビル、ドク・ホリデイ×ジョニー・リンゴなど、個々のキャラクターの絡みが伏線になっていて、単純なアクションの中に複雑な人間性を織り込むことに成功している。私は断然、ドク・ホリデイ×ジョニー・リンゴの絡みにハマった。似たもの同士は憎み合う。だから、なんだなと…。

そこで見ていると、見よ、青白い馬が出てきた。そして、それに乗っている者の名は「死」と言い、それに黄泉が従っていた。彼らには、地の四分の一を支配する権威、および、つるぎと、ききんと、死と、地の獣らとによって人を殺す権威とが、与えられた。
(冒頭でジョニー・リンゴが引用する聖書個所 新約聖書 ヨハネの黙示録6:8)

評点 ★★★★★

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