MUDDY WALKERS 

山猫は眠らない SNIPER

山猫は眠らない 1992年 アメリカ 100分

監督ルイス・ロッサ
脚本
マイケル・フロスト・ベックナー
クラッシュ・レイランド

出演
トム・ベレンジャー
ビリー・ゼイン

スト−リ−

 トーマス・ベケット上級曹長(トム・ベレンジャー)は特殊任務を遂行する米軍の狙撃手。2人1組となって、南米パナマとコロンビア国境付近に広がるジャングル地帯で、極秘任務を行っている。あまりにも過酷でよくパートナーが死亡してしまうため、友軍の兵士たちからも疎んじられた存在だ。ある日ベケットは若い伍長とともにある人物の狙撃を成功させる。しかしジャングルから引き揚げるためのヘリが昼間に到着、敵に見つかってしまい、パートナーを失うことになる。任務を終えて基地に戻ったベケットに、新しい任務が伝えられた。ワシントンから来るエリート軍人リチャード・ミラー(ビリー・ゼイン)とともに、パナマの麻薬王オチョアとその援助を受ける将軍アルバレスを暗殺するというものだった。ミラーは元オリンピック選手で射撃の銀メダリスト。ワシントンではその腕前に期待をかけていた。ベケットと落ち合うためにヘリで移動中、激しい攻撃を受けてミラーは狙撃銃で応戦しようとするが、どうしても引き金を引くことができない。しかし敵兵はヘリの機銃に撃たれて死んだ。兵士たちはそれをミラーが狙撃したと勘違いし、感心する。ミラーもそれを否定しようとはしなかった。しかしベケットと2人で行動を開始すると、ジャングルに不慣れなミラーは足手まといに。そしてベケットは彼がまだ一人も人を撃ち殺したことがないことに気付き始めていた…。

レビュー

 アメリカ海兵隊の中でも特殊な「狙撃手」という存在をクローズアップした、超がつくほどマニアックな作品。「ワンショット・ワンキル(一発必中)」を信条とする熟練狙撃手ベケットと、競技射撃は得意だが実戦経験のないエリート軍人ミラーが敵対する気持ちを持ちながら標的となる危険人物に立ち向かっていく。

 ほとんどが鬱蒼としたジャングルの中のシーンで、極端にセリフが少ない。しかも主要登場人物はベケットとミラー、2人だけ。しかしそれが欠点ではなく、作品の色になっている。74人を殺害してきたという狙撃のプロの生き様が、無言のうちに多くのことを物語るのだ。柱となるのは、ベテラン狙撃手がエリート未経験者をプロへと成長させていく過程である。ヘタな脚本家ならベケットに狙撃やジャングル経験の蘊蓄を語らせるところだが、言葉ではなく行為と態度によって狙撃手のあるべき姿を示そうとしている。反発しあうミラーとの「心理戦」が前半の見どころである。

 ミラーは決して、狙撃手として実際に人を殺したことがないとは言わない。しかしベケットは彼のたたずまいから、そのことを悟る。そして追求するが、ミラーはやはり認めない。このあたり、実に2人の間にある緊迫した空気がひしひしと伝わってきて、見ている方も緊張を強いられる。ミラーが実際にジャングル戦ではずぶの素人だということは、ベケットの指摘を待つまでもなく分かる。ジャングルで敵の気配を感じるたびに、「ミラー、後ろ、後ろ!」とヤキモキ、ハラハラ。手に汗握るとはこのことである。しかもこういったマイナーな映画は、マイナーであるだけに大作映画にありがちなハッピーエンドに終わらないことが多いので、余計にハラハラできるのだ。
 オチョアの本拠地に乗り込む後半は、うって変わって大アクションが展開される。ここでも重要なのは心理だ。オチョア襲撃の後のミラーの大暴走にはあっと思わされるが、激闘の中でミラーが冷酷無比なベケットの心の内に隠された感情に気付いていくプロセスは見応えがある。

 狙撃銃のスコープを画面に配したり、発射された弾丸をクローズアップするなど、細部にこだわったマニアックな映像づくりも、狙撃手という独特の生き様を際だたせている。ミラーとベケットが互いに離れた所から、狙撃銃のスコープで相手を確認し会話する様子が面白かった。ミラーを演じる俳優はどこかで見た顔だなと思っていたら、「タイタニック」で嫌味な婚約者役を演じたビリー・ゼインだった。ここでも嫌味な役柄だが、その風貌によく合っていると思う。トム・ベレンジャーは「プラトーン」以来のはまり役。寡黙なプロフェッショナルが背中で語る無言の言葉まで見事に演じきっている。

 それにしても、この邦題はすばらしい。単に原題と同じく「スナイパー」だったら、観ようとは思わなかっただろう。そういえば劇中、街中を走るバスの車体に「ランボー」姿のスタローンの絵が描いてあった。何だかわからないが、笑ってしまった。ランボーみたいなのは絵空事なんだぜ。と言っているようだった。

評点 ★★★★

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