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最後の忠臣蔵

最後の忠臣蔵2010年 日本 133分

監督杉田成道
脚本田中陽造
原作池宮彰一郎「最後の忠臣蔵」

出演
役所広司/佐藤浩市/桜庭ななみ/安田成美
伊武雅刀/片岡仁左衛門/山本耕史
風吹ジュン/田中邦衛/福本清三

スト−リ−

 赤穂浪士の寺坂吉右衛門(佐藤浩市)は、討ち入りした四十七士ただ一人の生き残り。吉良邸に討ち入りした浪士の遺族を訪ね歩き、生活を援助するという務めを果たし終え、四十六人の17回忌の法要に参列するため、大石内蔵助(片岡仁左衛門)の又いとこ、京にいる進藤長保(伊武雅刀)の屋敷へと向かった。その途中で、彼は討ち入り前夜に姿を消した瀬尾孫左衛門(役所広司)を見かけて驚く。彼は四十七士のうちでただ一人、大石内蔵助の家来で寺坂とは親友だった。孫左衛門は骨董を商う商人となって竹林の奥の隠れ家で暮らしていたが、その家にはもう一人、可音という16歳になる娘がいた。ある日、京都で人形浄瑠璃の見物に孫左衛門とやってきた可音は、そこで豪商・茶屋の跡取り息子(山本耕史)に見初められる。茶屋の屋敷に出入りしていた孫左衛門は、顔の広さを見込まれて、息子が見初めた娘を探してくれ、と頼まれるが、可音には孫左衛門しか知らない出生の秘密があった。

レビュー

  映画としては別個の作品だが、原作は同じ池宮彰一郎の「四十七人の刺客」(1994年 主演:高倉健)の続編である。先に「四十七人の刺客」を見ていたために、話に入っていきやすかった。  内容としては、「忠臣蔵」として知られる赤穂浪士の吉良邸討ち入り事件の後日談。討ち入り後、大石内蔵助の命によって一人生き延び、切腹を命じられて死んだ四十六人の浪士の遺族を尋ね歩いて討ち入りの様子を語り伝え、生活に必要な金を手渡す任務を果たした寺坂吉右衛門。彼が、討ち入り前夜に姿を消した瀬尾孫左衛門の姿を偶然見かけるところから、物語は始まる。  しかし、話が動き出すには少し時間がかかる。人里離れた隠れ家のような家で、瀬尾孫左衛門は16歳の少女と二人で暮らしている。それが自身の娘でないことは、すぐにわかる。彼は跪き、その16歳の少女に仕えているからだ。幼少の頃から育て上げてきたらしい。謎めいたこの二人の暮らしぶりが、静かに描かれる。説明的なものはなく、ただ淡々と描かれるその暮らしぶりの中に、単にこの二人に身分の差、そして父と子ほどの年の差がある、ということだけでなく、少女が委ねきることのできるほどの信頼感と、引かれた一線を決して踏み越えようとはしない慎ましさの中にある瀬尾の少女に対する深い愛情が見てとれる。京都で遊んだ帰り、家に戻って瀬尾が桶の水で少女の足を足を洗う場面には、そんな二人の秘めたる思いがにじみ出ているかのようだった。

 赤穂浪士の生き残り、寺坂にとって瀬尾は討ち入り前日に姿を消した謎を抱える男。このあたりは「四十七人の刺客」とつながっているので実は見ている方にはそれほど謎でもないのだが、その娘・可音の出生の秘密というのは、ネタバレになるので書かないでおこう。可音のことを、瀬尾が育てているとは知らず「あの娘の居所を探してくれ」と依頼する豪商の茶屋。跡取り息子に見初められたことを、瀬尾は「無事嫁入りさせるまでが自分の任務だ」と喜ぶ反面、出生の秘密を明かして、彼女が受け入れられるのか恐れを感じ、苦悩する。さらに、縁談を持ちかけた可音から、その心のうちを告白されて、さらに深い葛藤に飲み込まれていく。

 16歳の少女、可音と五十を過ぎた瀬尾との間に、言葉にならない思いが交錯するさまが、この映画の一番の見所である。序盤で二人が見物に言った人形浄瑠璃の演目は「曾根崎心中」。劇中で、それぞれの心中を表すかのように、人形浄瑠璃によって演じられる「曾根崎心中」の場面が挿入される。そして、それぞれは、それぞれに「心中」すべき対象を見いだす。

 タイトルの「最後の忠臣蔵」が示すとおり、瀬尾は瀬尾に課せられた務めを果たすことによって、自らの「忠義」を成し遂げる。だが、武家の娘にふさわしく育て上げられた可音もまた、自らの思いに「死ぬ」ことによって「忠義」を果たしたといえるだろう。可音が、自らの決心によって作りだした、赤穂の残された侍たちの「花道」。瀬尾と可音は別々の道をたどるが、思いにあって二人は心中したともいえるかもしれない。

 瀬尾を演じる役所広司が、素晴らしい。彼でなければ16歳の娘、可音との間にある言葉にならない思いの交錯を、あれほどまでに表現することは出来なかっただろう。可音を演じる桜庭ななみという若い役者は知らなかったが、役所の演技に引き立てられて、その心情を良く演じ切っていたと思う。また、映画の舞台となった風景もすばらしかったが、滋賀在住の私にとっては、見慣れた風景がいくつかあった。地元の風景が、このように映画の中で美しく輝いているのもまた、いいものである。製作はワーナー・ブラザーズ映画だが、あるいはだからこそ、日本映画の持つ日本らしい良さを生かしきった、そんな作品となった。

 せっかくだから、この面子で「四十七人の刺客」も作り直してくれないかしら…。

評点 ★★★★★

関連作品:四十七人の刺客

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