MUDDY WALKERS 

プリンス・オブ・エジプト THE PRINCE OF EGYPT

プリンス・オブ・エジプト 1998年 アメリカ 99分

監督
ブレンダ・チャップマン
スティーブ・ヒックナー
サイモン・ウェルズ

出演ヴァル・キルマー
レイフ・ファインズ
ミシェル・ファイファー
サンドラ・ブロック
ジェフ・フォールドブラム
ダニー・グローバー

スト−リ−

 紀元前1500年ごろのエジプト。この頃エジプトには多くのヘブライ人(イスラエル民族=ユダヤ人のこと)が奴隷として生活していた。ときのファラオは増え続けるヘブライ人を脅威に感じ、生まれたヘブライ人の赤ん坊のうち男の子はすべて殺すよう命じる。そんな中、ある母親が男の赤ん坊を隠し育てていたが、3か月になって隠しきれず、籠に入れてナイル川に流した。籠はやがてファラオの王宮に流れ着き、王妃に拾われる。そしてその赤ん坊はモーセと名付けられ、王宮で王子の一人として育てられた。何不自由なく成長したモーセは兄ラメセスを補佐する立場として期待されていたが、ある日、自分が奴隷であるヘブライ人の子であることを知ってしまう。神殿の建設現場で奴隷につらくあたる現場監督に腹を立て、誤って死なせてしまったモーセは王宮を飛び出し、一人荒野をさまよう…。やがて羊飼いの娘ツィッポラと出会ったモーセは結婚し、自分も羊飼いとして平和な日々を送っていたが、ある日、燃える柴を通して神の声を聞く。神はモーセに、ヘブライ人たちのリーダーとなってエジプトを去り、カナンの地(現在のイスラエル)を目指せと言うのだが…。

レビュー

 世界的に有名な旧約聖書の「出エジプト記」。その中でも特に物語として知られるモーセの出生から出エジプトまでの出来事を、聖書に忠実に、そして詳しく書かれていない部分は大胆に脚色してアニメ化したのが、この作品である。日本でいえば大河ドラマ的な定番の歴史もの。話がどうなるかは観る前からわかっているのだ。よって見どころはストーリー展開よりも、有名な物語のシーンをどのように演出し、見せるかというところにある。壮大な物語を、モーセの葛藤という視点をメインに再構築した。それを具体化するキャラクターとして、ラメセスを兄に据えたのは実にうまいと思う(聖書ではモーセはエジプト王宮で育てられたが、王子の兄弟として育てられたという記述はない)。

 モーセの葛藤は、自分が奴隷とされているヘブライ人だと知ることからはじまる。このシーンがすごくいい。宮殿の壁画が動き出して、その過去の歴史、ファラオがヘブライ人の赤ん坊を次々に殺していくシーンを再現していく。壁画を観てモーセがそれを知ったということがわかるが、それを驚くべき躍動感をもって表現した。モーセの受けたショックがよく伝わるのだ。

 そして、燃える柴を見てモーセが神と初めて対話するシーン。聖書を読んでいても感動的なシーンだが、絵に描いたり像に刻んだりすることを禁じた、人間には不可視の神ヤハウェの圧倒的な存在感が、豊かに表現されている。ここからエジプトを脱出する有名な「紅海が割れる」シーンまで、いわゆる超常減少の連続であるが、CGを使って見事に描ききった。しっかりした歴史考証と豊かな想像力の融合といえよう。

 日本はアニメの分野では世界でも最高レベルの水準を持っているといわれるが、それは一人ひとりの監督の技量によるところが大きい。この作品のように原作がよく知られた物語で、しかも実写映画で大成功をおさめた題材を、アニメの特性をいかして新鮮に見せる。そういった点ではどうだろうか。アニメが取り組むべきジャンルを自ら狭めていないだろうか。

 多くの日を経て、エジプトの王は死んだ。イスラエルの人々は、その苦役の務のためにうめき、また叫んだが、その苦役のゆえの叫びは神に届いた。
(旧約聖書 出エジプト記2:23)

評点 ★★★★

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