MUDDY WALKERS 

のぼうの城 

のぼうの城 2012年 日本 144分

監督犬童一心/樋口真嗣
脚本和田竜
原作和田竜「のぼうの城」

出演
野村萬斎/佐藤浩市/成宮寛貴/山口智充
榮倉菜々/上地雄輔/前田吟/市村正親
夏八木勲/平泉成/西村雅彦

スト−リ−

 天下統一を目前にした豊臣秀吉(市村正親)は、関東最大勢力であった北条氏の拠点、小田原城を攻めることを決意する。北条氏政は北条側につく城主に籠城に参加するように命じる。忍城の城主、成田氏長(西村雅彦)は籠城に参加すると見せかけて、豊臣側に内通することを決めるが、石田三成(上地雄輔)は秀吉に命じられて忍城を討つために軍勢をさしむける。後を任された甥の泰季(平泉成)が開戦直後に病没したため、その子・長親(野村萬斎)が総大将とし、2万を誇る石田軍に、わずか500の兵力で戦うことを決意するのだった。しかしその長親といえば、領民からは農作業を手伝うなどして親しまれているものの、武将としては何の実績もない男だった。2万対500の戦いの行方は…? 

レビュー

 という史実をもとにしたストーリー。史実が非常に面白いだけに、映画も面白く鑑賞することが出来たのだが、ある意味、本当の意味で素材となる史実の面白さを生かしきったとは言えない出来だった。

 長親を演じる狂言師の野村萬斎、彼を補佐する正木丹波守に佐藤浩市、鬼神のごとき働きをする柴崎泉の守の山口智充、そして武功を焦る石田三成に上地雄輔。素材も面白いし、キャスティングもいい。それに、城攻めの戦や水攻めの大迫力の描写も実にいい(ただ、どうしても水攻めでは東日本大震災を思い出してしまうが)。原作の歴史小説を、実に巧みに映像化した、という意味ではよく出来た作品だ。だが、見終わってみて、いろいろ疑問が出てきてしまう。なぜ長親は石田軍と(そうする必要がなかったにも関わらず)戦うことにしたのか? なぜ農民たちは、戦いで農地が荒らされるのに、戦うことを選んだ長親にこうも好意的なのか? 石田三成が水攻めにこだわった理由も単純すぎる。

 かように、いろいろツッコミどころが満載で、それでもそれなりに面白く鑑賞できたのは、役者の演技力によって補われている部分が非常に大きいと思う。歴史背景や、忍城という舞台、城主の成田一族と領民との関係、とくに主人公の長親が慕われた理由が、十分に描きこまれていないのだ。だから「単にいい人だから」農民が味方してくれたんだな、ということで終わってしまう。

 石田三成に至っては、秀吉の高松城攻めの水攻めを見て「オレもこんな戦がして〜!」と、忍城の水攻めを敢行してしまうのだが、それはあまりに単純にすぎるというものだろう。成田氏と領民との強い絆があることからして、絶対的な権力をもつ君主として君臨しようとする秀吉は、その絆を粉砕しようとしたのではないか、と私は感じた。何が正解かは分からないにしろ、もうすこし歴史的背景から見た解釈というものを作品の土台に据える必要があったのではないか。

 それがないので、歴史の重みのようなものが感じられず、単なる面白いエピソードに終わってしまったのが、残念な作品である。

評点 ★★★

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