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An another tale of Z

  「宇宙戦艦ヤマト」全話レビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

「宇宙戦艦ヤマト」全話レビューを終えて 
ヤマトはいかにして「癒しと再生の物語」となったか(2) 
  

通常の軍隊を完全に破っているヤマトの艦内組織、そのワケは?

■カオル なぜ、私がヤマトを「綿密に構築された」と感じたかというと、全話レビューの最終回でヤマトを「癒しと再生の物語だった」と位置づけたのですが、振り返ってみれば、軍国主義の象徴ともいえる戦艦が復活するというプロットから、こういう感想がもたらされること自体に、制作者の相当の創意工夫があると思ったんです。ヤマトの乗組員は「隊員」で軍人ではないし階級もない。戦艦でありながら、軍隊ではないという描き方がされているのも、その一つではないでしょうか。

■小林 ヤマト制作当時には戦争の話は今よりも慎重に触れなければいけない話題でした。そもそも制作者が成人した時代が敗戦の影響もあって軍隊知識の無菌状態で、階級制なんかもあまり知らなかったというのもあります。ですが、ヤマトの艦内組織が通常の軍隊のそれを完全に破っているのは、それ以外の理由もあると考えています。

■カオル どのような理由ですか?

■小林 ヤマトより少し前にアメリカの原子力潜水艦トライトンが無補給で世界一周しているのですが、ほぼ無限の航続力を持つ原子力機関が実用化して、その運用についてノウハウを収集する中で、長期の航海では機関よりも先に人間の方がダメになることが分かってきたんですね。現在の原子力潜水艦のルーティンは60日ですが、それ以上になると乗員の士気が明らかに下がることが分かっている。トライトン号は84日間でしたがね。これはニュースにもなりましたからヤマトの制作者は当然知っていたと思います。宇宙戦艦ヤマトのように1年間もの長期の航海を想定した場合、既存の海軍組織とその軍人ではダメなんですよ。

■カオル それでヤマトの組織はああいう感じになったと?

■小林 前例のない話ですが、今挙げた例などを踏まえて、長期航海に現実的なものとしてヤマトの艦内組織はそれなりに考えられたものではなかったでしょうか。階級制をできるだけフラットなものにして、乗員を同年同輩の若い宇宙戦士で揃えるといったヤマト独特の設定は大航海を前提にしたものです。だからヤマト2のような反乱も起きるのですが、宇宙戦艦ヤマトの乗員というのは軍隊の軍人である以前に幕末の志士のような同志の集まり、理想に燃える若者の集団というのが彼らが出した結論ではないでしょうか。 

■カオル 現在の世界で同じような組織はありますか?

■小林 国際宇宙ステーションの乗組員がいちばん近いでしょうね。皆それぞれの分野のエキスパートで、船長はいますが、軍隊的な階級制はほとんどない。数は少ないですが1年以上宇宙に滞在し続けた乗員もいますね。現在の世界で宇宙戦艦ヤマトの物語を再解釈するとしたら、私だったら乗員は海上自衛隊のクルーではなく、こういう人たちを手本にします。

■カオル なるほど、軍隊を手本にしないと。元のヤマトも艦内の組織は「戦闘班」「航海班」「技術班」「生活班」でリーダーは「班長」と呼ばれていましたが、このように長期航海に耐えられる組織という視点で考えると、この班という分け方はしっくりきますね。しかも、子どもにも分かりやすい。まるで学校ですが(笑)。

■小林 そう、学校とも似ています。艦長の沖田はさながら校長で。

■カオル 厳しく、しかし温かい目でヤマト隊員を導き、見守る中で古代らは互いに切磋琢磨しながら成長していく。学園ドラマでもあるわけですね。ヤマトって「青春だなあ」と感じる場面が多々ありますが、それも、こうした脱・軍隊を意識した組織であってからこその展開だったといえますね。


ヤマトの隊員たちと私たちとを結びつけていたもの

■カオル こうして、長期の航海に耐えるためのフラットな組織が考え出されたわけですが、一方小林さんの言われる「幕末の志士のような同志の集まり」には、共有された内的な動機がありました。古代や島らヤマトの隊員たちを動かしていた精神的な原動力としては、何があったと思われますか?

■小林 それはもちろん「地球を救う」でしょう。2199ではオミットされましたが、ヤマトが発進して艦上から赤い地球が見える場面で、古代が全員に「絶対に救うんだ!」と檄を飛ばす場面があります。あれなんかルーム長みたいなものですね。あまりの惨状に意気阻喪しそうな仲間を鼓舞して共通の目的に向かわせるという。2199と同じく、元のヤマトにもさまざまな乗員がいますが、現在の状況とその対処法についてはブレることなく一致しているんですよ。古代は全員が共有するその感情を言葉にしたわけで。

■カオル 2199の例が出ましたが、2199ヤマトの乗員は地球を救うことで一致していなかったんですか?

■小林 設定レベルで明らかに違います。2199ヤマトの乗員には原作のようにイスカンダルで放射能除去装置を受け取り、汚染された地球を浄化する「ヤマト計画派」と、地球を救うことはハナから諦めていて人類の一部(のエリート)を他の星に移住させる「イズモ計画派」がいて、後者の乗員は赤い地球を見ても何とも思わない。古代の煽動にも乗らない。イスカンダルはガミラスの同類だと思っている。

■カオル だから途中で反乱が起こったんですね。

■小林 2199の乗員は先に挙げた国際宇宙ステーションの乗員じゃなくて海上自衛官ですからね。それで1年間航海できると考える出渕裕以下の頭がアホらしくて。

→つづく

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