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An another tale of Z

 ATZ第三部連載を終えて 小林昭人さんインタビュー

 2010年12月より、ウェブ上での連載を再開した小林昭人さんの小説"An another tale of Z"。改訂版第三部がクライマックスを迎えようとしています。そこで第三部の連載終了を前に、第一部、第二部とはかなり趣きの異なった第三部の創作意図について、また創作にあたってどのような視点を大切にしてきたか、ということについて、お話しをお伺いしました。

一年戦争からほぼ20年後の作品の時代までに何があったのか、
それをここで語る必要があると思った。

1.改訂のねらい

■カオル ATZ第三部の連載がまもなく終わろうとしています。第三部は、2005年に公開されたウェブ版から大幅に改訂されました。一度書き終えた作品を見直して、新たにエピソードを書き起こして編集するというのは、大きな決断だったと思うのですが、この改訂にはどんなねらいがあったのでしょうか。

■小林 改訂前の第三部は全52話という制約があり、その中で13話で納めるということから、書きたいことを全部書けなかった恨みがありました。このパートはテレビで言えば「中だるみ」の場所で、前半の勢いはすでにありませんし、ラストまでにはまだ先があるという場所です。そういう場所ですから、いわゆる定型を外したストーリーをやりたいという希望はありましたね。
 今回の改訂では以前からあったそのカラーがますます強いものになったと思います。まずこのパートは現在と過去が交錯するパートですね。主人公も含めた登場人物のほぼ全員が、ここでは「一年戦争の影」というべき大戦争の傷跡を背負っているのですが、それがどんなものなのかは一部、二部ではまず書けなかった。大戦争からほぼ20年後の作品の時代までに何があったのか、それをここで語る必要があると思いました。
 もう一つ、主人公以外のキャラにスポットを当てることがあります。一部、二部では作話の必要上、主人公の二人とその周辺の話なのですが、彼らの周辺にはもっと複雑な事情を背負ったキャラがいます。大勢のキャラがいますが、彼らについて語っておくことで、作品世界が複雑さを増し、後の第四部の伏線になるわけです。元々中だるみパートですから、毎回同じパターンではやりたくないということもありますね。

■カオル その意味で、第三部は第一部、第二部とはかなり趣きもちがっていて、一話一話、毎回時代も舞台も、登場人物も変わって行く。オムニバスのように編まれた作品の中に様々な伏流があって、次第にそれが大きな筋となって見えてくる、そういったパートとして楽しめると思います。

2.第三部の舞台、サイド2

■カオル主要な舞台となるのは、これまで断片的に語られてきたサイド2「ガイア」です。この地域が混乱した場所である、ということは触れられてきましたが、なぜ、こうした舞台を設定されたのですか?

■小林 サイド2に「ガイア」という名称が付けられたのは改訂後ですが、ある意味ジオンやソロモン以上の大国、科学力でも優れた国家であったという書き方です。戦後はそれが分裂し、終わりのない戦いが20年近く続いている。一部では平和な場所もありますが、かつての大国と比べると不安定で脆い地域として描かれています。こういう舞台を設定したのは、全宇宙を戦国時代にするような話では作品がファースト尊重とした意味がないことがありますね。戦いが終わり、ある地域は平和になって発展した、ある地域はどうもうまく行かなかった。そういう世界の方が「らしかった」という理由があります。

■カオル サイド2は、一年戦争後に安定を取り戻すことが出来なかった地域ということができるのですね。この「ガイア」の栄光の時代と、それが崩れさって混沌とした状況へ転じていく、いわば本作の前史ともいえる物語が織り込まれていて、さらに世界観に厚みが加えられていますね。
「ガイア」にはクロスボーン・ヴァンガード、オーブル結成同盟、アガスタ共和国、アリスタ共和国、その他多くの国々が乱立しています。こうした諸国の設定そのものは、改訂前から確立していたのですか?

■小林 前からありましたね、ただ、クロスボーンとオーブル以外はそれほど強調されていなくて、アガスタはマーロウたちの駐留先、アリスタに至ってはほとんど空気という感じでした。ほか、一二市国などがありますが、これも一言だけでしたから、一度読んだだけでは気が付かないと思います。
 しかし、このATZの世界では、実は書かれざる多くの国が実はあるのですよ。ソロモンにしても、サイド5の全土を支配しているという書き方ではありませんから、現に第二部ではサイド5にあるジオン領コロニーが出てくる。サイド3にはジオンのほかにスタンパ、アナンケという国がありますね。これもよく見ないと分かりませんが、作者はそういうものとして意識しています。全部合わせれば80ヶ国というのは第四部で書いてますね。

3.主人公以外の視点から見る世界

■カオル そんな中で、マシュマーとハマーンは脇にまわり、あるいは影のような存在になっており、多くの新キャラクターが登場するのも第三部の注目点の一つですね。

■小林 第三部は例えば37話のヘルシングみたいに一話だけ主役みたいな話もいくつかあり、一部、二部のように特定の人物を軸にした構成にはなっていません。ただ、ある程度キーパーソンになっている人物はおり、例えば27〜35話まではマイッツアーがキーパーソンですし、38話以降のヴァリアーズもそういう人物でしょう。あと、ゴットンなどもそうでしょうし、マシュマーの代理人としてガイアに赴任するマーロウなども軸になる人物でしょう。主人公視点ではなく、様々な境遇の人物の見方を通して見るというのは第三部の大きな特徴です。

■カオル主人公の視点で世界を見る、あるいは主人公がどのように決断し、行動し、その結果どうなってゆくのかを見るというよりも、様々な人物の様々な視点を通して、この世界を多面的に見ていく、そういう意味で、今まで見えなかった部分を見て、この世界の深みに足を踏み入れて行くという楽しみがありますね。
 第三部の改訂にあたって、当初より存在感の増したキャラクターや、重要性を増したキャラクターも出てきたと思います。書いていて、意外に膨らんでいったキャラクターはいましたか?

■小林 以前から第三部では存在感のあったキャラはマーロウとマウアー、そしてザビーネですが、改訂によってというと実は何人も出てきます。マイッツアー・ロナにイザベル・バトレーユ、それにアリスタ首相のイクセルなんかは非常に存在感が高くなりましたね。この三人は改訂前は作劇の都合上、ほとんど記述を割けなかったキャラで、特にマイッツアーは元官僚という彼の履歴が苦悩となって、非常に良いキャラに成長したと思います。バートン、マックス、フォレスタル、そしてジャミトフなど彼の周辺の人物もそれなりに描けたことは良かったと思います。クロスボーン・ヴァンガードという組織自体の定義もきちんとできた。
 バトレーユとイクセルはこれこそ以前は言葉だけ、そういう人がいますというキャラだったのですが、改訂後はアガスタとアリスタの違いなども活写でき、各々個性的なキャラになったと思います。

■カオル 冒頭は、第二部同様にジャミトフ・ハイマンが登場する場面から始まりますね。彼も非常に興味深い人物です。

■小林 ジャミトフ・ハイマンは元作家という履歴は第二部でも書いているのですが、第二部、三部共に彼の場面がオープニングにあることで、実は作品の事件のほとんどの黒幕である彼の像がハッキリしてきたと思います。決してステロタイプな悪人ではないのですね。Zガンダムの彼は負けると基地を爆破して逃走するような人物なのですが、そういう感じではない。主人公たちとは方向性が違うとはいえ、それなりにビジョンを持ったひとかどの人物ということは分かると思います。
 ネロ・バートンは第三部で登場するオーブル国が共産国ということで、その始祖として作ったキャラですが、30話しか出番がないとはいえ、非常に強烈な個性を持ったキャラだと思います。彼の思想信条は現代の我々の奉ずるそれとはかなり違うのですが、彼の描写を加えることで後の話が楽になったことは確かです。
 ただ、全般としてディティールアップされたキャラは多く、彼ら個々について云々することはちょっとここでは無理ですね。トータルとしては良い方向に向かったと思います。

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