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An another tale of Z

  SF小説”An another tale of Z” 登場人物ファイル

魅惑のキャラクターにパーソナリティを注ぎ込み、
もう一つの「Z」の世界へ

アムロ・レイ編    

実はただ者ではなかった「普通の少年」

 それまでの荒唐無稽な設定とは打って変わった、SF色の強いリアルなロボットアニメ。そんな評価を得たガンダムの主人公といえば、アムロ・レイです。ガンダムの開発を手がける技術者を父に持つメカいじりが趣味の少年で、「内向的な性格」と評されています。彼はジオンの急襲を受けたサイド7で、たまたまそこにあった連邦軍の新型モビルスーツ、ガンダムに乗り込んでザクを撃墜。避難民を乗せた戦艦ホワイトベースの一員となり、ガンダムのパイロットとして一年戦争終結まで戦い抜くことになります。
 彼は、今までにはなかったタイプの主人公と言われています。宿敵となる「赤い彗星」シャアとは対照的に、どこにでもいそうな普通の少年でした。そのせいか、ことさら内向的な面が強調されますが、終始自分の世界に引きこもっているわけではなく、友人もいればコミュニケーション能力もあり、自分から進んで何かをする行動力も持っています。ただ、もともと主人公とその周辺の少年たちが、正規兵ではなく「とりあえず逃げるため戦った」という事情で戦争に関わることになったため、悪い敵を倒そうと息巻く熱血漢、というありがちな人物像とはちょっと違ったスタンスで描かれています。それが「内向的な性格」の意味するところでしょう。出撃拒否などの事件もありましたが、過剰なストレスからくる抑うつ状態が原因であって、内向的すぎる性格によるトラブルではありませんでした。そんなところからすると、彼の人物評はやや偏っているように思われます。

 そんなアムロですが、独断専行をブライトに咎められてガンダムでホワイトベースから脱走、中央アジアの砂漠地帯を彷徨したことがありました。ここで彼はジオンの士官ランバ・ラルと出会い、熟練パイロットで人望にも厚い、人間味溢れる指揮官の姿を目の当たりにします。それだけでなく、その度胸とモビルスーツ戦での強さを認められたことは、彼の内側に眠っていた「何か」を目覚めさせたといえるでしょう。ガンダムから降ろされ独房に入れられたアムロは、こう言って泣き崩れます。
「僕が一番、ガンダムを、うまく使えるんだ」
 そして拳を握りしめ、内に目覚めたその思いを口にするのです。
「僕は、あの人に、勝ちたい」。

 アムロ・レイが在りし日を振り返って、なぜパイロットの道を選んだのかと聞かれたら、きっとこの場面を回想するのではないでしょうか。それは彼が自分自身を見出した瞬間でした。

「ニュータイプ」の部分だけで語られるようになった人物像

 その戦争終結から7年後を舞台にした続編、Zガンダムでは、カミーユ・ビダンという新主人公がガンダムに搭乗します。ここは、「僕が一番、ガンダムを、うまく使えるんだ」と豪語し、実際その言葉通りに連邦軍のエースとなった前作主人公との「対決」を否が応でも期待するものです。前作からのファンにとって、「一番ガンダムがふさわしい」人物は、アムロをおいて他にはありません。とすれば、この新主人公カミーユは、アムロからガンダムをその奪ってはじめて認められる、と考えるのがファン心理というものでしょう。
 しかし、そうはなりませんでした。Zガンダムの中のアムロは「一番ガンダムをうまく使える」人物ではなく、「ニュータイプとして危険視された」ゆえに連邦軍によって軟禁状態に置かれた人物として登場します。前作では英雄的な活躍をし、ニュータイプであることも肯定的に受け止められていた(というか、さほど重視されていなかった)彼が、なぜ「ニュータイプ」であるという理由でこのような憂き目に遭うのか、Zガンダムを視聴してもさっぱり分からないのですが、この前作でのアムロとZのアムロとには、先に見たシャアほどに顕著には思われないけれども明らかに大きなギャップがあります。その原因は何か、と考えたときに、ファーストの終了からZの制作が始まるまでの間に書かれた、富野喜幸氏による小説「機動戦士ガンダムI〜III」の内容が思い当たりました。
 小説でのアムロについて、詳細は下記ページで紹介していますが、小説でのアムロは最初から軍属(パイロット候補生)であり、ララァとシャア、そしてセイラとの関係に深く入り込んで葛藤することが、大きくクローズアップされています。パイロットとしてはニュータイプ能力を駆使して敵であるシャアと意思疎通を図り、戦争を終わらせるために共闘しようとします。その過程で彼は戦死しますが、ホワイトベースのクルーはついにシャアと共同してザビ家を打倒しました。もしアムロが死なずにいたら、恐らくはその勢力を持って連邦軍にも反旗を翻そうと考えたでしょう。このように、アニメ版とは異なり、やや複雑な人物として描かれています。

小説版「機動戦士ガンダム」のすべて
http://www.muddy-walkers.com/REVIEW/review2.html

 恐らく、続編を作るにあたって富野氏は、前作アニメのアムロを、意図的に別人である小説版のアムロの人物像とさしかえたものと思われます。わたしたちはなぜそうなったかも知らされぬまま、危険人物に仕立て上げられ、ガンダムを取り上げられた上にララァを殺したトラウマに苛まれる人物を、かつての英雄の堕ちた姿として受け入れざるを得ませんでした。

続編への夢ーー大人になったアムロが、もう一度大戦に出ていくとしたら?

 私自身も以前、アムロとシャアを主人公に、一度ガンダムの続編を想定した小説を書いたことがありました。その動機の一つは、上記のように「別人」にすり替わったかのようなアムロではない、ファーストで見たアムロの大人になった姿を見たかった、ということにありました。モビルスーツのパイロットとして卓越した技術を持ち、若くして敵の士官からその度胸と才能を認められた彼が、もし再び一年戦争のような大きな戦いに出ていくことがあったら、どのように成長して、どんな戦いを繰り広げるのだろうか。それが、前作の主人公に期待する、ありきたりだけれども楽しい「夢」ではないでしょうか。

 本作のアムロは、術科学校の教官として登場します。作者の小林さんの資料によれば、一年戦争後の彼は高校を卒業し、士官学校を経て連邦軍に再入隊しています。そしてガンダムのパイロット、一年戦争のエースとしての知名度を活かし、講演活動や新型モビルスーツ「GMIII」の販促活動などにも従事していたようです。
「僕が一番、ガンダムを、うまく使えるんだ」と豪語した少年は、メカニックに習熟した一流のパイロットに成長しているものの、官僚主義の連邦軍にあってはそのざっくばらんな性格が災いして損をしているようなところもあったように思われます。そのため卓越したパイロットでありながら、どちらかといえば「客寄せパンダ」的なポジションに甘んじていたアムロですが、20歳代にして第二艦隊司令官に抜擢されたサディアス・コープ大将に引き抜かれ、連邦軍としては異例の「将官」パイロットとして活躍していくことになります。


カオルのひとこと

 地球連邦の副大統領が乗った専用機がハイジャックされ、救出作戦で連邦軍とエウーゴ、ティターンズ、そしてソロモン共和国軍の「ドリームチーム」が結成される34話。ここで、クワトロ大尉の正体を知らないティターンズのジェリドは、アムロと組んで戦うことになったクワトロを揶揄する発言をします。

「あんたがアムロ少将とチームを組むとは驚いたな、てっきり俺かエマかと思ったが、そんなに腕が立つのか、エウーゴのクワトロ大尉?」
 所詮ゲリラ戦の士官ではないか、アムロ少将についていけるのか、と、ジェリドは隅で牛乳を啜っているアムロの方を見た。一年戦争の英雄だというが、今じゃ俺の方が、、
「口を慎めよ、ジェリド少佐。」
 それまで黙っていたアムロがポツリと呟いた。
「君はシャア・アズナブルと戦って勝てるのか?」
 ジオンにいるはずの、もう一人のエースの名を挙げられ、その場の雰囲気が一瞬凍り付いた。
「シミュレータなら三回に一回は勝てる。」
「正直な男だな。」
 ジェリドの言に、アムロは笑った。
「クワトロ大尉はそのシャアに比肩するパイロットだ。だから私は君ではなく彼を選んだ。所詮、ティターンズのエリートは学校秀才に過ぎない。実戦での能力は別だ。」
(第三十四話「副大統領救出作戦」より)

  かつての宿敵と共闘することになったアムロは、赤い彗星と呼ばれて恐れられたジオンのエース、シャア・アズナブルの名前をさりげなく出して、ジェリドではなくクワトロを相方に選んだ理由を説明するとともに、彼の思い上がりをたしなめています。シャア(=クワトロ)とは互いの実力を認め合う関係となり、また若手世代の「超えるべき目標」となっていることがわかるワンシーンです。この作戦でガンダムと称される機体に搭乗するのはアムロではなくジェリドですが、どんな機体であったとしても「一番うまく使える」と言い切れる自負をアムロが持っていることが伝わってきます。

「アムロをガンダムから降ろす」というブライトの決定にへそを曲げて、戦艦ホワイトベースから脱走した少年の頃。ブライトは「アムロがいない間、指揮者としての僕はひどく不安だった」と洩らしていました。敵の士官、ランバ・ラルの生き様に「ぼくは、あの人に、勝ちたい」と拳を震わせた少年には、パイロットとしての優れた適性以上のものもまた、備わっていました。
 ATZ第四部。サディアス・コープ大将とともに戦場へ赴くアムロの姿が登場します。私たちがそのちょっと内気でオタクっぽい少年に見出した、その不思議な統率力。かつての主人公をこうして見出し、大戦の舞台へと引き出してくれた人物がいるこの世界で、彼はZガンダムで見失ってしまった「続編への夢」を私たちに見せてくれることでしょう。

「私のカンは、間違っていないだろうね。間違っていた方が大勢の人間に迷惑を掛けずに済むと思っているのだがね。」
 デネブ級戦艦、旗艦「カザン」の艦橋で、第2艦隊司令官、サディアス・アルバート・コープ大将は戦闘機動軍団長のアムロ・レイ少将に聞いた。戦闘勃発は事実としても、全艦出動の必要まではなかったのではないか。自分の判断は実は誤りなのではないか。
 そんな司令官をアムロはフッと笑った。
「間違っていないと思いますよ。軍人のカンというものは、あまり良くてもいいことは無いと思うのですがね。大将は、なかなかいいカンをしていると思います。とにかく、急いだ方がいいです。私は空母に戻って偵察隊を組織します。サイド2の状況を知る必要がありますからね。第三艦隊からの通信は途絶えがちです。」
「君は私の旗艦にいて欲しいのだがね。」
 ハンガーに向かおうとするアムロに向かって、司令官はポツリと言った。それを聞いてアムロは笑う。司令官の言いたいことは分かる。
「術科学校から引き抜かれる時に言ったはずですよ、『モビルスーツに乗っていた方がお役に立てます』とね。私はその言葉通りに実行するだけです。あなたはもっと自分に自信を持った方がいいと思いますね。そうすれば、ご自分の部下も信用できます。」
「無茶はするなよ。」
「それはケース・バイ・ケースですね。」
(第五五話「オーブルの戦い」)

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