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An another tale of Z

 SF小説”An another tale of Z” 解説

魅惑のキャラクターにパーソナリティを注ぎ込み、
もう一つの「Z」の世界へ

 小林昭人さんの作品「An another tale of Z」は一年戦争後の世界を舞台に、宇宙世紀世界の全容とスペースコロニー国家の興亡、そして太陽系の覇権をめぐる戦いを壮大なスケールで描いて、「もう一つの続編」の可能性を追求したオリジナルSF小説です。そこには、Zガンダムのキャラクターたちが堂々と、しかし元の作品とは違う姿で登場します。ページを開いて、そのことに戸惑った人もいるのではないでしょうか。
 なぜ、Zガンダムのキャラクターが、こんなふうに使われているのか? 今回は、キャラクターという視点から、「An another tale of Z」の世界をガイドします。

Zガンダムから「恋愛評論」が生まれたワケ    

「恋愛」に注目した3つの理由

 2000年のサイト開設から、私のサイトの看板コンテンツになっていたのは「恋愛プロファイリング」というお遊びコーナーでした。ガンダムに登場するキャラクターを「恋愛」という視点で分析するというものです。
当時はそれほど深く考えて作ったコンテンツではなかったのですが、今になってZガンダムの全話レビューに取り組んでみると、改めて「なぜ恋愛という視点でキャラクターを切ってみようと思ったか」が見えてきたように思います。
 その理由は3つあります。
(1)キャラクターがそれぞれに個性的で造形的には優れている。
(2)キャラクターの背景や人物像が曖昧である。
(3)ストーリーが戦況の動向より個人の心理描写を重視して展開されている。

※(参考)別冊宝島「僕たちの好きなZガンダム」シリーズ掲載「Zの男たち」「Zの女たち」

(1)キャラクターがそれぞれに個性的で造形的には優れている。

 本作のキャラクター・デザインはファーストに引き続き安彦良和氏が担当しています。安彦氏がそれぞれのキャラクターをデザインしたとき、どの程度キャラクター像が固まっていたのかはわかりませんが、絵を見る限りでは、それぞれのキャラクターの人物像や内面を見る者に想像させる、素晴らしい造形がなされているように思います。芯が強いがちょっと神経質そうな主人公カミーユ、かわいらしいけれども気が強そうな幼なじみのファ、確固とした自分を持った大人の女性エマ、ミステリアスな魅力を醸し出すマウアー、など。それぞれのキャラクターだけ見れば、これからどんなストーリーを彼らは紡ぎ出していくのであろうと、ワクワクさせるものがありました。

(2)キャラクターの背景や人物像が曖昧である。

 にもかかわらず、それぞれのキャラクターの第一印象として見る者が感じ取るほどには、ストーリー展開の中で、それぞれの人物像や育ってきた背景などが語られず、プロフィールも性格も曖昧なままにその場の都合で話が進んでいきます。
 例えば、主人公のカミーユ。3話、5話で相次いで両親を失う彼ですが、どうやら父親は不倫、母親は仕事に没頭、というくらいしかわからず、暴力的ですぐキレる、独断専行の行動などかなり特異な主人公の性格について、なぜ彼はそうなのか、といった背景や心情については、勝手に推測するよりほかにありません。
 エリート組織のティターンズに所属し将来を見込まれてたにもかかわらず、組織を裏切ってエウーゴに参画したエマ・シーンや、敵地への潜入工作など危険な任務に身を投じるレコア・ロンドなど、その設定は興味深いものでしたが、設定を裏打ちするような人物像や彼女らのこれまでの生き方を感じさせる話はないままに終わっていきました。大半のキャラクターが、過去の一年戦争を何らかの形で経験しているはずで、続編のキャラクターは新キャラであっても過去とのつあがりを感じさせるべきエピソードが何かしらあるはずなのですが、そういうところにはほとんど触れられず、表面的な「設定」のみでストーリーが創り上げられていきました。

(3)ストーリーが戦況の動向より個人の心理描写を重視して展開されている。

   本作は地球連邦を二分する勢力、ティターンズとエウーゴとの戦いを描いた作品ですが、本来中心となるはずの戦いの行方よりも、そこに参戦している個人の言動にスポットが充てられています。
 例えば24話でエウーゴのリーダー、ブレックス准将が暗殺されます。彼は死の間際にクワトロ大尉に後を任せる言葉を遺し、クワトロ大尉はブレックス准将の遺志を継いで、37話で地球連邦の首都ダカールで議会を占拠した上でエウーゴの主義主張を国民に届けるべく演説をします。
 しかしこの間の12話で語られたのは、ティターンズの強化人間サラに心惹かれるカツ、シロッコの艦ジュピトリスに潜入してシロッコに誘惑されるレコア、ジェリドに尽くす女マウアーの犠牲の死、スパイ行為を働くサラと再会し乙女心に触れるカミーユ、シロッコとクワトロの間で揺れるレコア、アクシズのハマーンとの再会に動揺するクワトロ、戦いの末シロッコの元へ捕らえられていくレコア、そして強化人間の少女フォウとの再会と死、などです。その合間にグラナダへのコロニー落としを阻止したり、サイド2をティターンズの毒ガス攻撃から救ったり、シロッコがハマーンと手を結んだりしますが、戦況といえばその程度。「地球連邦を二分する勢力の戦い」と思わせながら、中身は主人公の少年カミーユが、Zガンダムを駆使して敵味方を問わずいろんな人と関わり、人を傷つけたり人から傷つけられたりする、というだけの戦争を背景にした青春ドラマになっているのです。

 このような(1)(2)(3)の理由から、観ているうちに私は、主人公のカミーユが次はどの女性と絡み、どんなことで痴話ゲンカをし、その結果どこでどんな人間関係がつながったり壊れたりしていくのか、ということでしか、本作を楽しもうとすることは出来ないとわかったのです。
 そんな中で、すぐれた魅力的なキャラクター造形、そしてとりわけ豊富な女性キャラと男性キャラのたいして中身のない恋愛模様を逆手にとらえ、「じゃあ、描かれていない部分や分からない性格は、描かれた言動や表面的なところから推測して分析してみたら面白いんじゃないか」ということで、キャラクターのプロフィールを考える、「恋愛プロファイリング」というコンテンツを考え出したわけです。

 それは、ファーストガンダムの続編として本来あるべき「戦争ドラマ」を逸脱した本作において、それでもまだ「見られる」点を探して生かそうとした、苦肉の策として生まれたものだったのです。

つづく

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